「何度言っても変わらない社員」と、経営者はどう向き合うべきか― 我慢でも排除でもない。「期待・期限・結果」を曖昧にしない経営

これまで3回にわたり、「信賞必罰」「エース社員への依存」「真面目な社員が馬鹿を見る組織」について考えてきました。

ここまで読むと、一つの現実的な問いに行き着きます。

「では、何度言っても変わらない社員を、実際にどうすればよいのか。」

これが一番難しい問題です。

特に中小企業では、人の問題を簡単に割り切ることはできません。

長年会社に貢献してきた人かもしれない。

重要な顧客を持っているかもしれない。

高い専門性を持っているかもしれない。

家族のことまで知っている社員かもしれない。

そして何より、今の採用環境では、辞められたからといってすぐに代わりが見つかるとは限りません。

だから経営者は悩みます。

「もう少し様子を見よう。」

「もう一度話してみよう。」

「本人にも事情があるだろう。」

もちろん、対話は必要です。

しかし、それを半年、1年、2年と繰り返しても何も変わらないのであれば、それはもはや「様子を見ている」のではありません。

経営者が意思決定を先送りしている状態です。

今回は、この問題から逃げずに考えてみたいと思います。

目次

「何度言っても変わらない」は、本当に何度言ったのか

まず、経営者に確認してほしいことがあります。

「何度言っても変わらない」と言うとき、本当に相手に伝わる形で伝えているでしょうか。

例えば、

「もっと新規営業を頑張ってくれ。」

「もう少し周囲と協力してほしい。」

「管理職なんだから、部下をちゃんと育ててほしい。」

「自分から考えて行動してほしい。」

こうした言葉を何度伝えても、行動はなかなか変わりません。

なぜなら、何をすれば「できた」ことになるのかが分からないからです。

新規営業を頑張るとは、月何件なのか。

周囲と協力するとは、どんな行動なのか。

部下を育てるとは、半年後にどのような状態をつくることなのか。

経営者の頭の中には基準があります。

しかし、それが本人の頭の中にも同じように存在するとは限りません。

だから最初に必要なのは、叱ることではありません。

期待を具体化することです。

「人」を評価するのではなく、「役割」と「行動」を評価する

このとき注意したいのが、人格の問題にしないことです。

「あいつはやる気がない。」

「危機感がない。」

「協調性がない。」

「考え方が古い。」

こうした言葉を使い始めると、問題解決が難しくなります。

本人からすれば、

「ちゃんとやっています。」

で終わってしまうからです。

見るべきなのは人格ではなく、事実です。

営業担当者であれば、

新規顧客へのアプローチが3か月間ゼロだった。

商談記録が入力されていない。

重要顧客への訪問を一人で行い、情報共有がない。

管理職であれば、

半年間、部下との1on1を実施していない。

部下の営業同行をしていない。

会議で決めた改善施策を実行していない。

ここまで具体化すれば、話は変わります。

「あなたはやる気がない。」

ではなく、

「管理職には月1回の1on1を求めているが、この3か月実施されていない。」

と言える。

人を責めるのではなく、期待する役割と現実の行動との差を示す。

これが対話の出発点です。

経営者がやってはいけない「何でできないんだ」

問題行動を指摘すると、経営者はつい、

「なぜできないんだ。」

と聞きたくなります。

すると本人は理由を説明します。

忙しかった。

顧客対応があった。

人手が足りなかった。

やり方が分からなかった。

場合によっては、会社側に本当に問題があるかもしれません。

ですから、理由を聞くこと自体は必要です。

ただし、ここで重要なのは、

「できなかった理由を聞くこと」と「できなくてもよいことにすること」は違う

ということです。

理由を確認する。

必要な支援はする。

障害があれば取り除く。

それでも、役割として必要なことなのであれば、改めて実行を求める。

この線を曖昧にしないことです。

優しい経営者ほど、事情を聞くとそこで話を終えてしまいます。

しかし、それでは本人は、

「説明すれば許される」

と学習します。

対話の目的は、免責することではありません。

次の行動を決めることです。

「改善してください」ではなく、期限を決める

ここからが非常に重要です。

何度言っても変わらない社員への対応では、必ず期限を設定する必要があります。

「今後は改善してください。」

ではありません。

例えば、

今後3か月間、新規顧客へのアプローチを毎月10件行う。

毎週金曜日までに案件情報を更新する。

部下との1on1を毎月実施する。

重要顧客への訪問には後任候補を同行させる。

3か月後にもう一度評価する。

ここまで具体的にします。

私は、この「期限」が極めて重要だと思っています。

期限がない期待は、願望だからです。

経営者は「変わってほしい」と思っている。

本人は「そのうちやろう」と思っている。

半年後、また同じ話をする。

これを繰り返している会社は少なくありません。

期待には期限をつける。

それだけで、経営者と社員の関係はかなり変わります。

改善期間中に、経営者がやるべきこと

ただし、期限を設定して放置してはいけません。

例えば3か月の改善期間を設けたのであれば、途中で確認します。

1か月目。

何をやったのか。

何ができなかったのか。

何が障害になっているのか。

会社として何を支援すべきか。

2か月目。

行動は変わっているか。

成果につながり始めているか。

本人は本気で取り組んでいるか。

そして3か月目に評価する。

ここで見るべきなのは、必ずしも結果だけではありません。

特に営業などは、3か月で売上という結果が出ないこともあります。

しかし、行動は変えられます。

新規営業をしたか。

顧客訪問の方法を変えたか。

情報共有を始めたか。

部下と対話したか。

つまり、

成果が出たかどうかと、変わろうとしたかどうかは分けて見る。

ここは重要です。

それでも変わらなかったらどうするのか

問題はここからです。

期待を明確にした。

必要な支援もした。

期限も設定した。

途中でフィードバックもした。

それでも行動が変わらなかった。

このとき経営者は判断しなければなりません。

そして、ここで再び、

「まあ、もう少し様子を見よう。」

とすると、それまでのプロセスがすべて無意味になります。

本人だけではありません。

周囲の社員も見ています。

「あれだけ社長が言っていたけれど、結局何も起きなかった。」

そう認識されれば、経営者の次の言葉はさらに軽くなります。

だから、結果を評価や役割に反映する必要があります。

ただし、それは直ちに退職を求めるという意味ではありません。

例えば、営業管理職として成果が出ないのであれば、管理職を外れて営業の専門職として力を発揮してもらう。

マネジメントは苦手でも、顧客対応は非常に優秀な人もいます。

逆に、既存顧客の維持は得意だが、新規開拓には向かない人もいます。

大切なのは、

「この人はダメだ」と判断するのではなく、「この役割を任せ続けることが適切なのか」を判断することです。

降格や配置転換は「敗北」ではない

日本企業では、一度管理職にした社員を管理職から外すことに強い抵抗があります。

本人のプライドが傷つく。

周囲の目もある。

辞めてしまうかもしれない。

だから役職だけが残り続けます。

しかし、これは本人にとっても会社にとっても幸せなのでしょうか。

営業では圧倒的な成果を出すが、人を育てることには関心がない。

そういう人を営業部長にしてしまえば、本人も苦しいし、部下も苦しい。

であれば、営業スペシャリストとして高く評価する方が合理的です。

役職を外すことと、その人の価値を否定することは同じではありません。

むしろ、

「何ができる人なのか」を正しく評価し直す

という発想が必要です。

「辞められたら困る」が再び顔を出す

しかし、実際に役割や処遇を見直そうとすると、経営者の頭には前回取り上げた言葉が浮かびます。

「これをやったら辞めるかもしれない。」

ここが最大の分岐点です。

もちろん、退職された場合の影響は考えなければなりません。

顧客。

業務。

人員配置。

引き継ぎ。

だからこそ、いきなり対峙するのではなく、その前から属人化を解消しておく必要があります。

しかし、もう一つ考えてほしいことがあります。

その人が辞めるリスクと、その人に忖度し続けるリスクの、どちらが大きいのか。

経営者は前者ばかりを計算します。

売上がいくら減る。

顧客が何社離れる。

採用にいくらかかる。

しかし後者にもコストがあります。

周囲の社員の意欲が落ちる。

若手が育たない。

経営者の方針が軽くなる。

新しい取り組みが進まない。

優秀な社員が会社を見限る。

しかも、こちらは決算書には直接出てきません。

だから過小評価されます。

しかし、中長期ではこちらの方が大きな損失になることもあります。

退職は「失敗」とは限らない

もう一つ、経営者が持っておきたい視点があります。

改善を求め、役割を明確にし、評価を適正化した結果、本人が会社を去ることを選ぶかもしれません。

それをすべて経営の失敗と考える必要はありません。

会社が目指す方向と、本人が望む働き方が一致しなくなることはあります。

会社が変化しようとしている。

本人は今までの働き方を続けたい。

どちらが善で、どちらが悪という話ではありません。

ただ、方向が違う。

それを曖昧にしたまま何年も一緒にいる方が、双方にとって不幸になる場合があります。

だから経営者は、

「全員に残ってもらうこと」を人事の成功と定義しない

方がよいと思います。

大切なのは、会社として何を目指すのかを明確にし、その方向に力を合わせられる組織をつくることです。

ただし、経営者にも覚悟が必要である

ここまで社員側の話を書いてきました。

しかし、「何度言っても変わらない」という問題では、経営者自身も問われます。

期待する行動を明確にしたか。

評価基準を説明したか。

必要な教育をしたか。

途中でフィードバックしたか。

そして、決めたルールを自分自身が守ったか。

経営者が気分によって言うことを変えているのに、社員に一貫性を求めることはできません。

昨日は売上を求めた。

今日は利益を求めた。

明日は新規開拓を求めた。

しかも全部最優先。

これでは社員も動けません。

信賞必罰を機能させるために最初に必要なのは、社員への厳しさではありません。

経営者自身の一貫性です。

「期待・期限・結果」を曖昧にしない

何度言っても変わらない社員に対して、経営者が取るべき対応は、実はそれほど複雑ではありません。

期待する役割を明確にする。

具体的な行動に落とす。

本人と対話する。

必要な支援をする。

期限を決める。

途中で確認する。

そして期限が来たら、結果を評価する。

改善したのであれば、きちんと評価する。

改善しなければ、役割や処遇を見直す。

言葉にすれば当たり前です。

しかし、この最後の「結果を反映する」ができない会社が非常に多い。

だから「何度言っても変わらない」が何年も続きます。

社員が変わらないのではなく、

変わらなくても何も起きない会社になっている。

この可能性を経営者は考える必要があります。

厳しさとは、相手を切ることではない

信賞必罰という言葉には、どこか冷たい響きがあります。

しかし私は、厳しさとは人を簡単に切ることではないと思っています。

何を期待しているのかを、曖昧にしない。

できていないことを、本人に伝える。

変わる機会を与える。

必要な支援もする。

そして、約束した期限が来たら判断する。

むしろ、何も言わずに不満をため、ある日突然見限る方が冷たいのではないでしょうか。

経営者には、社員の人生をすべて背負うことはできません。

しかし、会社でどのような役割を期待し、その期待に対してどう評価するのかについては責任があります。

だからこそ、

機会は公平に与える。しかし、結果まで平等にはしない。

この原則が必要なのだと思います。

「何度言っても変わらない。」

もし、そう感じる社員がいるのであれば、もう一度同じ話をする前に考えてみてください。

期待は具体的になっているか。

期限は決まっているか。

できなかった場合に何が起きるのか、本人は理解しているか。

そして何より、

その期限が来たとき、自分は本当に判断できるのか。

結局のところ、「何度言っても変わらない社員」の問題で最後に問われるのは、社員の覚悟だけではありません。

経営者が、

「変わらなくても構わない」という状態を終わらせる覚悟を持てるかどうか。

そこに行き着くのだと思います。

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この記事を書いた人

co founder / Chief Financial Officer
Financial Strategist
公認会計士・経営学修士(MBA)

財務戦略の立案・実行支援が専門。大手監査法人にて会計監査を経験した後、財務コンサルティングファームにて企業再生支援・M&Aサポート・IPOサポートなどのトランザクションサービスに携わり、2020年に独立開業。「財務の力で中小企業を元気にしたい」という思いのもと、志ある経営者の最良の伴走支援者として、財務の視点から経営改善・事業成長をサポートしている。志を共にする異業種のプロフェッショナルが集まることで、社会に大きなインパクトを与えたいとの思いを抱え、RGPに参画。趣味は読書・麻雀。ここ最近ではストリートピアノに憧れ、初心者ながらピアノ教室に通い始めた。

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