前回の記事では、
「財務の仕事は数字を作ることではなく、人を動かすことである」
というテーマについて考えました。
会社を変えるのは数字ではありません。
数字を見た人がどう考え、どう判断し、どう行動するかによって経営は変わります。
今回はその続きとして、
「なぜ数字を見せても人は動かないのか」
というテーマを考えてみたいと思います。
多くの会社では、月次会議や経営会議でさまざまな数字が共有されています。
売上。
利益。
粗利率。
予算達成率。
しかし、その数字を共有しただけで現場の行動が変わることは意外なほど少ないものです。
これはなぜなのでしょうか。
数字を共有することと理解されることは違う
財務の現場では、
「数字を見せたのだから伝わっているはずだ」
という思い込みがしばしば発生します。
例えば、
「今月の営業利益は予算比90%でした」
という報告をしたとします。
財務担当者からすると重要な情報です。
しかし営業担当者や現場社員からすると、
「だから何なのか」
が分からないことがあります。
営業利益が予算比90%であることと、自分の日々の仕事とのつながりが見えていないからです。
数字は共有されたかもしれません。
しかし理解されたとは限りません。
さらに言えば、
理解されたとしても行動につながるとは限りません。
ここが経営において非常に重要なポイントです。
人は数字ではなく物語で動く
人間は本来、数字を処理するようにはできていません。
私たちは太古の昔から、物語によって情報を理解してきました。
例えば、
「売上が前年比95%になりました」
という説明より、
「このままの状況が続くと来年の新規採用計画を見直さなければなりません」
という説明の方が伝わります。
あるいは、
「在庫回転率が悪化しています」
よりも、
「倉庫に眠っている商品が現金を止めています」
と言われた方が理解しやすい。
数字は事実です。
しかし事実だけでは行動は生まれません。
事実に意味が与えられて初めて、人は動き始めます。
私は財務担当者や経営者に求められる役割の一つは、
「数字を物語に翻訳すること」
だと思っています。
数字を説明するのではなく、
数字が示している未来を語る。
それが人を動かす第一歩になります。
KPIが失敗する本当の理由
近年、多くの企業がKPIを導入しています。
重要業績評価指標とも呼ばれます。
数字で目標を管理しようという考え方です。
もちろん有効な手法です。
しかし現実には、
KPIを導入したのに組織が変わらない会社も少なくありません。
理由は何でしょうか。
それは、
「測定」と「行動」を混同しているからです。
例えば、
営業件数をKPIに設定したとします。
しかし営業担当者がその数字に意味を感じていなければ、ただ管理されている感覚しか残りません。
人は管理されるために働いているわけではありません。
成果を出したい。
顧客に貢献したい。
成長したい。
そうした内発的な動機を持っています。
数字だけを押し付けると、人は数字のために働くようになります。
しかし本来は、
目的のために数字を活用するべきです。
KPIが機能する会社は、
数字の裏にある目的が共有されています。
逆に機能しない会社は、
数字だけが独り歩きしています。
経営者が陥りやすい勘違い
経営者自身も同じです。
私は多くの経営者とお話しする中で、
「数字を見れば社員も危機感を持つはずだ」
という考え方を耳にします。
しかし実際にはそうなりません。
なぜなら経営者と社員では見えている景色が違うからです。
経営者は毎日、
資金繰りを考えています。
借入金返済を考えています。
設備投資を考えています。
会社全体を見ています。
だから数字の意味が分かります。
しかし社員は違います。
自分の担当業務を中心に仕事をしています。
同じ数字を見ても、そこから読み取れる情報量が違うのです。
経営者に必要なのは、
数字を見せることではなく、
数字の意味を共有することです。
危機感を共有する。
目指す方向を共有する。
数字が示す未来を共有する。
そこまでできて初めて組織は動き始めます。
人を動かす財務の第一歩
では、人を動かす財務を実践するためには何が必要なのでしょうか。
私はまず、
「この数字を見て誰に何を感じてほしいのか」
を考えることだと思います。
売上の数字を共有する。
利益の数字を共有する。
資金繰りを説明する。
その時に、
何を伝えたいのか。
どんな行動を期待しているのか。
そこまで設計されているでしょうか。
数字そのものは目的ではありません。
行動を変えるための手段です。
会議で説明するための数字ではなく、
現場が動くための数字になっているか。
その視点が重要です。
次回予告
数字だけでは人は動きません。
なぜなら人は合理的な存在ではないからです。
私たちは感情に影響されます。
思い込みにも左右されます。
過去の成功体験にも縛られます。
次回は、
「経営者を惑わせる認知バイアス」
をテーマに、人間の意思決定のクセについて考えてみたいと思います。
なぜ利益が出ていても不安になるのか。
なぜ撤退すべき事業を続けてしまうのか。
なぜ都合の良い情報ばかり集めてしまうのか。
行動財務の視点から、経営者の意思決定を深掘りしていきます。
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