ファイブフォース分析は、経営学やマーケティングを学ぶうえで避けて通れない定番のフレームワークです。筆者自身、現在、関西学院大学でMBA取得に向けて学んでいますが、複数の講義でファイブフォース分析を使う機会がありました。それだけ経営学の世界では広く定着している手法だと、あらためて感じています。本記事では、5つの項目を埋めるだけではなく、「なぜ、その業界は儲かるのか、あるいは儲からないのか」を生み出している構造まで掘り下げて解説します。

MBAの講義でも何度も登場するファイブフォース分析
筆者は現在、関西学院大学でMBA取得に向けて学んでいます。
授業を受けていて少し意外だったのが、ファイブフォース分析が一つの講義だけではなく、複数の講義で当たり前のように出てきたことです。
マーケティング戦略を考える授業でも出てきますし、企業戦略や事業環境を考える場面でも使われます。
大学やビジネススクールで学ぶフレームワークは数多くありますが、ここまで何度も登場するものは、それほど多くありません。
それだけファイブフォース分析は、経営学の中で定着した基本的な分析手法の一つなのだと思います。
ただ、何度か実際に使ってみると、少し気になることもありました。
5つの項目を埋めるだけだと、思ったほど戦略にはつながらないのです。
「競合が多い」
「新規参入は難しい」
「顧客の交渉力が強い」
こうした情報を整理すると、確かに業界の状況は見えてきます。
でも、そこから
「では、何をすればいいのか」
まで考えようとすると、もう一段深く掘る必要があります。
ファイブフォース分析は、5つの箱を埋めるためのフレームワークではありません。
本来見るべきなのは、それぞれの競争圧力を生み出している原因は何かという部分です。
ファイブフォース分析とは
ファイブフォース分析とは、マイケル・E・ポーターが提唱した、業界の競争環境や収益性を分析するためのフレームワークです。
分析するのは、次の5つの競争要因です。
- 既存企業同士の競争
- 新規参入の脅威
- 代替品の脅威
- 売り手(サプライヤー)の交渉力
- 買い手(顧客)の交渉力
マーケティングや経営戦略の授業では、この5つの項目について情報を集め、それぞれ「強い」「弱い」と整理することが多いと思います。
ただ、実務でファイブフォース分析を使う場合、ここで終わってしまうと少し物足りません。
たとえば、
「競合が多いので、業界内の競争は激しい」
と書くだけなら、インターネット検索や生成AIでも簡単にできます。
考えたいのは、その一段奥です。
なぜ競争が激しくなっているのか。
競争企業が多いからなのか、市場が成長していないからなのか、商品に差がないからなのか。それとも巨大な設備を止められないため、各社が値下げしてでも販売しなければならないからなのか。
この「競争圧力を生み出している原因」を探すところに、ファイブフォース分析の面白さがあります。
ファイブフォース分析は「業界の利益がどこへ流れているか」を見る
ファイブフォース分析を理解するとき、「業界全体に利益のパイがある」と考えるとわかりやすくなります。
企業が生み出した利益は、すべて企業の手元に残るわけではありません。
サプライヤーの交渉力が強ければ、仕入価格の上昇という形で利益がサプライヤー側へ移ります。
顧客の交渉力が強ければ、値引きを要求され、利益が顧客側へ移ります。
競争が激しければ、広告費や販促費、値下げによって企業同士で利益を削り合います。
さらに代替品が登場すれば、そもそも市場そのものが縮小してしまうこともあります。
ファイブフォース分析とは、言い換えれば、
「業界で生まれた利益が、どの力によって削られているのか」
を見る分析だと考えると理解しやすいでしょう。
1.既存企業同士の競争を決める要因
最初に見るのが、現在その業界にいる企業同士の競争です。
競合が多いだけで「競争が激しい」と判断するのではなく、競争を激しくしている構造を確認します。
企業数と企業規模
競合企業が多かったり、同程度の規模の企業が何社も存在したりすると、競争は激しくなりやすくなります。
市場を支配する企業が1社だけなら価格競争は起きにくいですが、似た規模の企業が5社、10社と並んでいれば、各社がシェアを取ろうとして広告や値引きを増やす可能性があります。
市場の成長率
市場が成長しているときは、競争が多少激しくても各社が売上を伸ばせます。
昨日100だった市場が翌年110になるなら、他社の顧客を奪わなくても成長できるからです。
一方、市場規模が100から90へ縮小している場合は事情が変わります。
自社が売上を維持するためには、他社の顧客を奪う必要があります。
成熟市場や縮小市場で競争が激しくなりやすいのは、このためです。
固定費の高さ
航空、ホテル、鉄道、半導体、製造業など、大きな固定費を抱える業界では、設備を止めていてもコストが発生します。
ホテルなら、客室が空いていても建物の維持費や人件費はかかります。
そのため、
「空室のまま0円より、多少値下げしてでも販売した方がいい」
という判断が起こります。
競合企業が同じことをすると、価格競争が発生しやすくなります。
生産能力を少しずつ増やせない
工場などでは、生産能力を「5%だけ増やす」といった調整が難しいケースがあります。
新工場を建てれば、一度に生産能力が20%、30%増えることがあります。
需要以上に供給量が増えれば商品が余り、価格が下落します。
このため、設備産業では生産能力の増加方法まで見る必要があります。
製品の差別化
商品同士の違いが小さくなる、いわゆるコモディティ化が進むと、顧客の比較基準は価格へ寄りやすくなります。
商品Aも商品Bもほぼ同じなら、
「安い方を買おう」
となるのは自然です。
この状態になると、企業は価格競争から抜け出しにくくなります。
2.新規参入の脅威を決める「参入障壁」
利益率の高い市場には、新しい企業が入りたくなります。
それでも新規企業がなかなか入ってこない業界があります。
そこには「参入障壁」があります。
規模の経済
生産量が増えるほど、商品1個あたりのコストが下がることを「規模の経済」と呼びます。
たとえば既存企業が年間100万個を生産しているのに、新規企業が1万個しか生産できない場合、新規企業の製造コストが高くなる可能性があります。
大量生産できる企業ほど有利になる構造が強ければ、新規参入は難しくなります。
必要となる投資金額
参入するために数十億円、数百億円規模の設備投資が必要なら、新しい企業は簡単には入れません。
工場だけでなく、研究開発設備、物流網、店舗網、大規模なITシステムなども参入障壁になります。
ブランドとスイッチングコスト
長年使っている商品から別の商品へ変更するとき、顧客に手間や費用がかかる場合があります。
これを「スイッチングコスト」と呼びます。
たとえば業務システムを別会社の製品に変更する場合、
データ移行、社員教育、操作方法の変更などが必要になります。
新しいサービスの方が多少安くても、
「変更する方が面倒だ」
となれば、顧客は既存企業に残ります。
先行企業だけが持つ優位性
規模以外にも、新規参入企業が簡単には真似できないものがあります。
特許、独自の仕入ルート、好立地、ブランド、長年蓄積したノウハウなどです。
ここで重要なのは、
「お金をかければ追いつけるか」
という点です。
資金だけでは短期間に取得できない資源が多い業界ほど、参入障壁は高くなります。
法律や制度
国や自治体の認可、免許、資格、法規制なども参入障壁になります。
その業界への参入に許可や資格が必要なら、誰でも簡単に市場へ入れるわけではありません。
3.代替品の脅威を見る
ファイブフォース分析で初心者が混同しやすいのが「競合」と「代替品」です。
競合とは、基本的には同じ業界の商品です。
代替品は、
「違う業界の商品なのに、顧客の同じ目的を満たしてしまうもの」
です。
有名な例がデジタルカメラとスマートフォンでしょう。
スマートフォンは、もともとカメラメーカーの競合企業が販売していた商品ではありません。
ところがスマートフォンのカメラ性能が上がったことで、
「日常の写真を撮りたい」
というニーズのかなりの部分を満たすようになりました。
代替品の価格性能比
代替品を見るときは、「性能」だけでは足りません。
価格とのバランスを見る必要があります。
本格的なカメラよりスマートフォンの方が画質で劣っていても、
「普段使うならこれで十分」
と思う人が増えれば、代替は進みます。
乗り換えコスト
代替品へ変更する手間が小さいほど、代替は進みやすくなります。
逆に、乗り換えるために設備変更や従業員教育が必要なら、代替品が登場しても短期間では市場が動かないことがあります。
提供価値の単純さ
自社の商品が提供している価値が単純な機能だけなら、別の商品に置き換えられる可能性があります。
たとえば「情報を保存する」「移動する」「連絡する」といった機能だけで比較される商品は、新しい技術が登場したときに代替されやすくなります。
4.売り手、つまりサプライヤーの交渉力
企業が商品を作るには、原材料、部品、システム、人材などを仕入れる必要があります。
その供給元がサプライヤーです。
サプライヤーの交渉力が強いと、仕入価格を上げられたときに拒否しにくくなります。
サプライヤーの数
サプライヤーが100社ある場合と、2社しかない場合では企業の立場が違います。
100社あれば、
「値上げするなら別会社から買います」
と言えます。
2社しかなければ、それが難しくなります。
他社商品へ変更できるか
その企業だけが作れる特殊な部品や素材なら、サプライヤーの交渉力は高くなります。
一方、同じ品質の商品を10社から仕入れられるなら、買い手側が有利になります。
サプライヤーが自分で販売できるか
もう一つ見たいのが「垂直統合」です。
たとえば部品メーカーが、
「部品をあなたの会社に売るのではなく、自分たちで完成品を作って直接顧客に販売しよう」
と考えられる場合です。
サプライヤーが下流市場へ参入できる状況では、交渉力が強くなる場合があります。
商品品質への影響
その部品が完成品の品質を左右する場合も、サプライヤーの交渉力は高くなりやすくなります。
たとえば製品全体の価格に占める割合は小さくても、その部品が壊れると商品全体が使えないのであれば、簡単には安い部品へ変更できません。
5.買い手、つまり顧客の交渉力
最後が顧客側の力です。
企業がどれだけ良い商品を作っていても、顧客から強い値下げ要求を受ければ利益率は下がります。
顧客が少数に集中している
売上の50%を1社の顧客に依存している会社を想像してみてください。
その顧客から、
「来年から10%値下げしてください」
と言われたら、簡単には断れません。
取引がなくなったときの影響が大きすぎるからです。
このように顧客が少数に集中している市場では、買い手の交渉力が強くなります。
商品がコモディティ化している
他社商品とほとんど違いがなければ、顧客は簡単に比較できます。
「A社が高いならB社にする」
と言える状態です。
これも買い手の交渉力を高めます。
顧客が内製できるか
BtoBでは、顧客企業が、
「外注するより、自社で作った方がいい」
と判断することがあります。
これを上流への垂直統合と考えることができます。
内製化という選択肢を持っている顧客ほど、取引先に対する交渉力を持ちやすくなります。
顧客にとって大きなコストか
年間100億円のコストを使う会社にとって、年間10万円の商品なら細かい価格交渉はあまりしないかもしれません。一方、年間20億円使っている仕入商品なら話は別です。数%値下げするだけでも数千万円、数億円のコスト削減になるため、購買担当者は厳しく交渉します。
ファイブフォース分析は「強い・弱い」を書いて終わりではない
ここまで5つのフォースを説明してきましたが、実務では分析結果を並べただけでは戦略につながりません。
たとえば、
| フォース | 評価 |
|---|---|
| 既存企業の競争 | 強い |
| 新規参入 | 中程度 |
| 代替品 | 強い |
| 売り手の交渉力 | 弱い |
| 買い手の交渉力 | 強い |
この表だけ見ても、
「では、何をすればよいのか」
はわかりません。
次に考えたいのが、どの変数が最も業界の利益を削っているのかです。
「独立変数」を探すと5フォース分析が戦略になる
ここで少しだけ統計学の言葉を借ります。
「独立変数」とは、結果を変化させる原因側の変数です。
たとえば、
市場成長率低下
↓
各社が他社顧客を奪う
↓
広告費増加
↓
値引き競争
↓
業界利益率低下
という流れが確認できたとします。
この場合、
「競争が激しい」
という事実よりも、
市場成長率の低下
の方が重要な変数かもしれません。
ファイブフォース分析では、この因果関係を探します。
「選択肢を持っている側」が交渉で強くなる
売り手と買い手の交渉力を見るとき、かなり使いやすい考え方があります。
それが、
「どちらが選択肢を多く持っているか」
です。
サプライヤーが1社しかなく、買い手が100社いるなら、サプライヤーが有利です。
一方、
サプライヤーが100社あり、顧客が3社しかいなければ、顧客側が有利になります。
恋愛に例えるのは少し乱暴ですが、他に選択肢が10人いる人と、相手が1人しかいない人では、交渉力が違うようなものです。
ビジネスでもかなり似ています。
自社が考えるべきなのは、
「相手の選択肢を減らし、自社の選択肢を増やせないか」
ということです。
サプライヤーを複数化するのも一つです。
顧客を分散させるのも一つ。
自社商品を簡単に比較できないものにすることも、選択肢を減らす方法になります。
差別化には「垂直的差別化」と「水平的差別化」がある
ファイブフォース分析の結果、
「商品が似ているから価格競争になっている」
とわかった場合、差別化戦略を検討することになります。
ここで知っておきたいのが、垂直的差別化と水平的差別化です。
垂直的差別化
性能、耐久性、処理速度など、比較的客観的に優劣を判断できる差別化です。
たとえば、
100km走れるバッテリーより500km走れるバッテリーの方が性能は高い。
このように多くの人が同じ基準で評価できるものです。
ただし、性能は数字で比較できるので、競合企業が追いついてくる可能性もあります。
水平的差別化
デザイン、ブランド、操作性、雰囲気、サービス体験など、人によって評価が変わる差別化です。
コーヒーを例にするとわかりやすいでしょう。
同じ500円のコーヒーでも、
「味だけならこちら」
「店の雰囲気ならこちら」
「仕事をするならこちら」
と評価が分かれます。
単純な性能比較では決まりません。
水平的差別化が強くなると、顧客が商品を単純に価格だけで比較しにくくなります。
結果として、買い手の交渉力や既存企業との価格競争を弱められる可能性があります。
ただし、差別化すれば必ず競争を避けられるわけではありません。
重要なのは、
顧客が評価する価値に差を作れているか
という点です。
5フォースは「現在」ではなく「変化」を分析する
ファイブフォース分析で特に重要なのが、時間軸です。
現在の状況だけ分析すると、
「今、この業界はこうなっています」
という説明資料で終わってしまいます。
戦略を考えるなら、
これから5つの力がどう変わるか
まで見る必要があります。
たとえば生成AIが登場すると、
代替品の脅威が高まる。
新規参入コストが下がる。
顧客が内製できる範囲が増える。
商品がコモディティ化する。
こうした変化が同時に起こる業界もあります。
また、法改正によって新規参入障壁が突然下がるケースもあります。
新技術によって、それまで強かったサプライヤーの力が一気に弱まることもあります。
このため実務では、
「今、どのフォースが強いか」
だけではなく、
「どの変数が動き始めているか」
を見ることが重要になります。
ファイブフォース分析の実務的な進め方
実際に分析するときは、次のような順番で考えると使いやすくなります。
まず市場を定義します。
次に5つのフォースについて、競争圧力を高めている決定要因を探します。
その上で、
「業界利益を最も削っているフォースは何か」
を考えます。
さらに、そのフォースを強くしている原因を探します。
最後に、
「その変数は今後どう動くのか」
を考えます。
イメージとしては、
事実 → フォース → 決定要因 → 因果関係 → 将来変化 → 戦略
という流れです。
5つの箱を埋めることが目的ではありません。
分析結果から、
「何を変えれば競争環境を有利にできるのか」
まで考えて初めて、経営戦略として使えるファイブフォース分析になります。
MBAで学んで感じた、ファイブフォース分析の面白さ
MBAの講義で何度かファイブフォース分析を使ってみて感じたのは、同じフレームワークでも、分析する人によって結果がかなり変わるということです。
5つの項目自体は決まっています。
それでも、
何を競合と定義するか。
どこまでを市場と考えるか。
何を代替品と見るか。
どの変数を重要だと判断するか。
このあたりで分析結果が変わってきます。
言い換えると、ファイブフォース分析は答えを出してくれる道具ではなく、業界について考えるための「型」に近いのだと思います。
複数の講義で何度も登場する理由も、実際に使ってみると少しわかる気がします。
業界を見るときに、
「競合は誰だろう」
だけではなく、
「この業界で利益を取りやすいのは誰なのか」
「なぜその会社は利益を取れるのか」
「その構造は今後も続くのか」
と考えられるようになります。
この視点は、マーケティングだけでなく、企業戦略や新規事業を考えるときにも使いやすいと感じています。
まとめ
ファイブフォース分析で押さえておきたいポイントは、次の4つです。
- ファイブフォース分析は、MBAの講義でも繰り返し登場するほど、経営学で定着している基本的な分析手法である
- 5つの競争要因を並べるだけでなく、その原因となる決定要因まで掘り下げる必要がある
- 売り手・買い手の交渉力は「どちらが多くの選択肢を持っているか」で考えると理解しやすい
- 現在の状態だけでなく、技術革新や規制変更によって各フォースがどう変化するかを見る
ファイブフォース分析を一度やってみると、つい5つの項目をきれいに埋めたくなります。
筆者自身もMBAの講義で何度か分析する中で、最初はそのように考えていました。
ただ、使っていくうちに気になってくるのは、その表のさらに奥にある、
「なぜ、この業界はこうなっているんだろう」
という部分です。
自分が知っている業界を一つ選び、まずは「その業界の利益を一番削っているのは、5つのうちどのフォースだろう?」と考えてみてください。
そこから原因を一段ずつ掘っていくと、ファイブフォース分析の見え方はかなり変わってくると思います。
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