「QCDを高めましょう」という言葉を聞くことは少なくありません。しかし、この言葉が単なるスローガンに留まってしまっている現場も多くあります。重要なのは、「何のためにQCDを高めるのか?」という問いに立ち返ることです。
今回の「オペレーション戦略」の学びを通じて、私は経営戦略とオペレーション戦略を一気通貫で結びつける視点の重要性を改めて痛感しました。本稿では、オペレーション戦略の全体像と、その実務における応用可能な視点を整理しておきたいと思います。
オペレーションは「アウトプット」から考える
オペレーション戦略を考える際には、「インプット→プロセス→アウトプット」という流れがありますが、実務上ではこの順に考えようとすると往々にして混乱します。重要なのは、アウトプットからスタートすること。
提供価値(スピード・コスト・品質・柔軟性)であるアウトプットをどう実現するか?という“出口”から逆算することで、プロセスやインプットの最適化へと発想をつなげることができます。
また、リソース制約が強い中小企業においては、むしろインプット(人・設備・キャパシティ)を起点に考えざるを得ない場面もあります。この柔軟な順序設計も、オペレーション戦略を設計するうえで重要な視点です。
「QCD-I」のトレードオフ構造を戦略視点で設計する
オペレーション戦略では、品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)、在庫(Inventory)──通称「QCD+I」のバランス設計が鍵を握ります。
ここで重要なのが、「すべてを高めればよい」という発想から脱却し、戦略からの要請に基づいて優先順位を設けることです。
例えば、“コスト最優先”の戦略を採る企業と、“柔軟性・納期”重視のカスタマイズ戦略を採る企業では、当然ながらオペレーションの設計思想が異なります。戦略なきオペレーション最適化は、組織を疲弊させるだけであり、「何を捨て、何を取るのか」を明確にする勇気が求められます。
SCM(サプライチェーンマネジメント)の構築も、QCD-Iのトレード構造を踏まえ、いかに在庫という“緩衝材”を活用しながら全体最適を設計できるかにかかっています。
「木を見て森を見ず」にならないフロー設計と稼働率分析
プロセスフローダイアグラムを作成する際は、イシュー起点で工程をデフォルメする力が求められます。細かく書きすぎて全体像を見失うのではなく、課題の所在(Where)を明確にしたうえで、必要な部分だけを丁寧に描く。これにより、問題解決の筋道が明快になります。
また、「稼働率」についても多くの誤解があると感じます。稼働率は高ければ良いというものではなく、顧客の待ち時間や混雑度とのトレードオフがある指標です。待ち行列理論の考え方を活かし、適切な稼働率を試算・管理することが、サービス業においては特に重要です。
実務では、必要な情報が揃っていることなどまずありません。その中で「どう定量化できるか?」という姿勢が、オペレーション戦略を機能させる第一歩となります。
内製/外注の判断軸は「戦略×オペレーション」
外注すべきか、内製すべきか──この判断を行う際にも、オペレーション戦略の視点が欠かせません。
具体的には、「戦略的に自社の中核となる業務かどうか」という軸と、「品質・コスト・納期・柔軟性(QCD+F)」の観点でどちらがバリューを発揮できるか、という二軸で評価する必要があります。
「経営戦略⇔オペレーション戦略」の一貫性を持たせた意思決定ができるかどうかが、結果として企業の持続的競争優位につながります。
トレードオフを打ち破る──バリューラインと密度の経済性
セブンイレブンの事例は、オペレーション戦略の真髄を教えてくれます。季節ごとに変えるパッケージで“限定感”を演出しつつ、中身の製造工程は変えない。これは「マーケティング」と「オペレーション」の高度な融合です。
また、ドミナント出店による「密度の経済性」の追求は、物流効率の向上にとどまらず、需要の平準化や教育コストの削減といった多方面でのレバレッジを可能にします。
表面的なコスト削減ではなく、「どこに構造的な効き所があるか?」をバリューチェーン全体で捉える視点が求められます。
「人だからこそ」の価値と模倣困難性
テクノロジーの発展に伴い、デジタル化が叫ばれる今だからこそ、人的オペレーションの重要性を見直す必要があります。
セブンイレブンの「タンピンカンリ」や、トヨタの「現地現物」「自働化」など、オペレーションを支えるのは、仕組みではなく“現場に染み込んだ思想”です。
こうした人的インフラは一朝一夕には築けず、模倣困難性を支える源泉でもあります。中小企業であっても、徹底的に“考える現場”を育てることで、他社には真似できない競争力を手に入れることができます。
経営全体を「オペレーションの眼」で再構築する
オペレーション戦略は、単なる現場の工夫や改善活動にとどまりません。戦略を実現するための“構造的な装置”であり、経営者自らが深く理解し、設計・運用すべき対象です。
そのためには、QCD-Iという成果指標だけでなく、SCM設計・プロセス分析・稼働率・内製外注判断・人的オペレーションなど、多角的な視点が必要となります。
特に中小企業においては、オペレーションの巧拙がそのまま経営成績に直結します。だからこそ、戦略と現場をつなぐ“橋渡し”として、オペレーション戦略を経営の中心に据えていくことが求められます。
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