近年、ChatGPTをはじめとした生成AIの普及によって、ビジネスにおける「AI活用」が現実的な選択肢として浸透し始めています。
特に中小企業の現場においては、「人手が足りない」「情報の整理ができない」「企画を言語化するのが苦手」など、さまざまな経営課題に直面するなかで、AIツールの導入が注目を集めています。
しかしながら、AIツールを「単体」で導入し、その便利さを体験したところで、それだけでは本質的な変化にはつながりません。
むしろ今問われているのは、AIツールをいかに「掛け算」で活用するか──つまり、複数のツールや人間の思考を組み合わせ、新たな価値を生むプロセス設計の発想です。
■ 単体では「補助線」、掛け算すれば「思考の構造」になる
たとえば、ChatGPTで「とりあえずアイデアを出す」といった使い方は、すでに多くの人が試しています。
ですが、それだけでは思考が“断片的”になりやすく、言葉も浮遊しがちです。
そこで、こうした出力をNotionやScrapboxなどに構造化して蓄積する。さらに、過去の蓄積をChatGPTに投げ返し、共通項を抽出したり、次の一手を生成してもらう──この一連の流れを“掛け算的”に捉えることで、初めて思考は「線」になり、「文脈」になります。
つまり、AIを使って断片的なアウトプットを量産するのではなく、AIを“思考の相棒”として組み合わせ、対話しながら思考の解像度を上げていく。
これが、AIとの新しい関係性です。
■ 「AIツールの掛け算」事例:こんな連携が価値を生む
● 会議録 × ChatGPT × ナレッジベース
- Zoom音声をWhisperなどで自動文字起こし
- ChatGPTで要点要約・論点整理・アクション抽出
- Notionでナレッジベース化・共有・検索
→ 単なるメモではなく、「情報資産化」に。
● ChatGPT × Midjourney × Canva
- ChatGPTで企画のコンセプト整理
- Midjourneyでビジュアル化
- Canvaで最終資料化
→ 企画書やSNS投稿を、視覚と論理の両軸で補完。
● ChatGPT × Python × Excel業務の自動化
- 業務フローの中で「繰り返し処理」を抽出
- PythonスクリプトをChatGPTで作成・チューニング
- ExcelやGoogle Sheetsで自動化連携
→ 属人化の解消、再現性の高い業務設計へ。
■ 「掛け算発想」は、“知っている世界”を広げる行為
多くの中小企業にとって最大の課題は、「知らないことを知らない」という情報ギャップです。
AIツールの多くは日々進化しており、選択肢は広がっているにもかかわらず、「そもそもそういう使い方ができることを知らない」という壁が存在します。
だからこそ、「掛け算発想」が重要なのです。
新しいツールを見たとき、「自分の業務とどう組み合わせられるか?」「このツールを既存の何とつなげると、思考や成果が加速するか?」と問い直す習慣が、“気づかない壁”を突破するヒントになります。
これは、単なるITリテラシーの話ではありません。
むしろ、問いの立て方を変える力、つまり「どのように自分の業務を分解し、再構成できるか?」という思考そのものが、経営者に求められるスキルだと考えています。
■ 「AIファースト習慣」をつくるためにできること
では、どうすればそのような“掛け算的思考”が身につくのでしょうか。
私が意識しているのは、以下のような「AIファースト習慣」です。
1. 日常の「面倒くさい」を言語化する
まずは、業務や生活の中で「毎回やっているけど非効率」「誰かに説明するのが面倒」と感じていることを洗い出し、書き出してみる。これ自体が、AIとの掛け合わせ候補です。
2. ChatGPTに“相談”してみる
「この作業をもっと楽にする方法ある?」「こういう資料を作るにはどんなステップがいい?」など、設計相談相手として使うことで、自分では思いつかない視点が得られます。
3. 小さく試し、蓄積する
最初から大きな業務をAIに任せるのではなく、まずは1日15分の業務から。「どの処理が自動化できるか?」を小さく試して、成功体験を積む。
4. 「1人社内ハッカソン」を定期開催
週に1回、1時間でもよいので、自分が試したAIツールの掛け算結果をまとめておく。小さな実験を言語化し、蓄積することが、AI編集力を育てます。
■ まとめ:経営の本質は「編集」にある
経営とは、限られた資源を組み合わせて、最大の成果を出す「編集の仕事」でもあります。
AIツールの活用も同じで、個々の機能を覚えるよりも、「何と何を掛け合わせると、未来が変わるか?」という発想力と実験力が問われています。
AIツールの“使い方”を学ぶのではなく、AIツールで“自分の思考や仕組みをどう再構成するか”を問い続けること。
それこそが、AI時代の思考力であり、競争力の源泉です。
コメント