経理はもう「経営の言語化機能」と捉えるべきではないか【第5回】

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中小企業におけるCFO人材のリアルな育て方

――“右腕がいない”構造をどう乗り越えるか


ここまで、全4回にわたって「経理からFP&Aへ」「CFO的視座をどう育てるか」「制度と習慣でどう支えるか」を考えてきました。
最終回となる今回は、あらためて「CFO人材をどう育てるか?」という本質に向き合います。

特に中小企業では、「右腕が育たない」「経理が社長の言うことを記録するだけになっている」といった課題が根強くあります。
それを変えていくには、“育成論”だけでなく、“構造の見直し”が必要です。


中小企業にCFOが育たない3つの構造的要因

まずは、CFO的な人材が社内に根づかない典型的な原因を3つ挙げます。


① 社長が「判断」と「数字」を自分だけで抱え込んでいる
・意思決定の背景を説明しない
・数字は経理に“処理”させるだけ

→ 経理が「考える機会」を持てない構造ができてしまう


② 経理に対する“期待値”が低い
・「間違えずに帳簿が締まればOK」
・「提案? そんなことは求めていない」

→ 意欲のある社員がいても、育つ余地がない


③ 育成のプロセスが設計されていない
・FP&A的な実務訓練が日常に埋め込まれていない
・経営との接点が意図的に作られていない

→ 「勘と根性」で育てるしかなくなっている


この構造を打破するには、属人的な期待ではなく、戦略的な育成設計が必要です。


CFO人材を「育つ環境ごと」つくるための3ステップ


ステップ①:経営と数字をつなぐ「問い」を日常に埋め込む

CFO的な思考の起点は、「数字の背後にある経営の問い」にあります。

たとえば:

  • 「今の投資判断、リスクは適正か?」
  • 「キャッシュの偏りが将来どんな制約を生むか?」
  • 「採用計画が財務構造に与える影響は?」

こうした問いを月次で1つでも考える習慣が、「思考の骨格」をつくります。


ステップ②:CFO的経験を“意図的に”積ませる

実務の中でCFO的視座を体感できるよう、次のような機会を設計します。

✅ 予算策定に参加させる
→ 数字を“決める側”の立場を経験

✅ 中期経営計画のドラフトを作らせる
→ 全体設計に触れさせ、仮説の構造を学ぶ

✅ 社長との月1回のレビュー面談
→ 数字を通じた経営対話の訓練

“場数”を与えなければ、思考は育ちません。


ステップ③:「CFOになる道筋」をキャリアとして提示する

経理が「いつまでも記録係」では、モチベーションも続きません。

  • 経理からFP&Aへ
  • FP&Aからファイナンスマネージャーへ
  • そしてCFOへ

この道筋が言語化され、社内で共有されていることが、
経営に近づく人材を自ら育てようとする文化につながります。


育てるとは、任せることではない。設計することだ。

「右腕が欲しい」と言う社長は多くいます。
しかしその多くが、「育てるための環境」を設計していません。

  • どんな問いを持たせるか?
  • どんな経験を積ませるか?
  • どんな対話を日常に組み込むか?

これらを意図して設計することが、CFO人材を生む前提条件です。


経理からCFOへは、企業文化そのものの進化である

経理が未来を語り、CFOが経営を翻訳する組織は、
もはや社長だけに依存しない、強靱な経営体になります。

それは単なる「役職」の問題ではなく、
会社の思考力そのものを鍛える取り組みでもあります。


全5回の連載を通じて、
「不普通の経理社員が、未来を動かす人材に進化する」可能性を見てきました。

この流れが、貴社の経営にとっての「次の一手」につながることを、心より願っています。

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