人手不足が常態化し、どの企業においても「限られた人材で最大の成果を出す」ことが問われています。とりわけ、経理や人事といったいわゆる“バックオフィス”部門は、「間接部門=コストセンター」として人材投資が後回しになりがちです。しかし私は、こうした考え方こそが中小企業の成長を阻む一因ではないかと考えています。
以前、経理は経営の「言語化装置」であるというコラムを書きました。経営の動きを数字に落とし込み、意思決定を支援する。それはもちろん重要な機能ですが、ここからさらに踏み込んで、「経理自身が直接的に“稼ぐ”力を持つにはどうすべきか?」という問いに挑んでみたいと思います。
視点1:経理の“フロント化”――売上や利益への関与意識を持つ
まず必要なのは、経理が「後方支援部隊」ではなく、「戦略実行のフロント」に立つという意識転換です。具体的には、「いかにコストを削るか」ではなく、「いかに利益を増やすか」を起点に考える姿勢です。
たとえば、経理部門が事業部の利益管理に能動的に関わるケースが増えています。各サービスごとの原価構造を可視化し、収益性の高い商品設計に寄与する。あるいは、仕入や価格戦略の根拠となる収支モデルをつくり、営業と連携する。
こうした活動を通じて、経理の仕事が「売上に近づいていく」のです。売上や利益を“後から見る”のではなく、“先回りしてつくる”という視座への転換。これが、経理のフロント化です。
視点2:数字の力で“現場の武器”をつくる
次に重要なのは、経理がもつ「数字」の力を、現場にとっての“武器”に変えることです。
現場の営業担当が「とにかく売れ」と言われ、やみくもに活動しているようであれば、経理は彼らにとっての“ナビゲーター”になるべきです。たとえば、売上構成や取引先別の粗利率を分析し、どの顧客に注力すべきかの指針を示す。あるいは、キャンペーンの費用対効果を検証し、打ち手の優先順位を明確にする。
数字は、現場の直感や経験を支える“裏付け”になります。そしてこの裏付けがあるからこそ、営業やマーケティングも自信を持って動ける。
つまり、経理の出すレポートや分析資料は「ただの報告書」ではなく、「現場を動かすための武器」であるべきなのです。
視点3:社内コンサルとして“意思決定の質”を高める
最後に、経理が「社内コンサル」として経営判断の質を引き上げる役割を果たすべき、という視点です。
経理は、数字を通じて全社の動きを俯瞰しています。だからこそ、事業のリスクや非効率な構造をいち早く察知できる立場にあります。単なる月次決算の報告ではなく、「このKPIがこの傾向を示している背景には、○○の変化があるのでは?」と、仮説をもって問いかける存在になれるかどうか。
このとき重要になるのが、「報告のための数字」から「洞察のための数字」への転換です。社内コンサルとして経営層と対話できる経理は、企業の舵取りにとって欠かせない存在になります。
経理が“付加価値人材”へと進化するために
ここまで見てきた3つの視点――
- フロント化(売上・利益への関与)
- 数字の武器化(現場支援)
- 社内コンサル化(意思決定への影響力)
これらは単に「業務の幅を広げる」ことではありません。経理が「自ら価値を生み出す存在」として進化するための、根本的な意識改革です。
もちろん、今すぐすべてを変えるのは難しいでしょう。しかし、小さくてもいい。まずは1つのプロジェクトに入り込んでみる。1つの数字の見せ方を変えてみる。そうした実践の積み重ねが、「経理が稼ぐ」組織への第一歩になるはずです。
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