経営を考えるうえで、自社の外部環境をどう捉えるかという問いは、極めて重要です。
市場は日々変化し、技術は進化し、制度や社会の価値観も変わり続けています。特に昨今では、AIや脱炭素、人口構造の変化、グローバルな政治不安など、個々の企業努力ではどうにもならない「時代の大きなうねり=メガトレンド」が、経営に直接的な影響を与えるようになっています。
では、私たちはその「大きな流れ」にどう向き合えばよいのでしょうか?
本稿では、外部環境を構造的に捉えるための基本フレームワークであるPEST分析を出発点としながら、中小企業の経営において、それを“評論”に終わらせず、自社に引き寄せる思考の枠組み=「ネオPEST分析」を提案してみたいと思います。
なぜ今、「PEST分析」なのか
PEST分析とは、Politics(政治)・Economy(経済)・Society(社会)・Technology(技術)の4つの視点から、外部環境の変化を読み解くフレームワークです。
たとえば、以下のような観点がPEST分析の対象となります:
- Politics:法改正、規制緩和、補助金政策、地政学リスク
- Economy:金利、為替、インフレ、景気動向
- Society:価値観の変化、人口動態、生活スタイル
- Technology:AI、IoT、バイオ技術、プラットフォーム化
本来PEST分析は、こうしたマクロなトレンドを整理し、経営戦略やマーケティング方針の検討に活かすための枠組みです。
しかし、現実には「とりあえず時流を並べただけ」の表面的なPEST分析が横行しているように感じます。
それは、“PESTを語る”ことが目的化してしまっており、“PESTから何を引き出すか”という視点が欠落しているからではないでしょうか。
中小企業こそ「メガトレンド」を引き寄せなければならない
ここで一つ強調しておきたいのは、「メガトレンド」は大企業だけのものではないということです。
たとえば、「人口減少」は政府や自治体の課題であると同時に、地方の中小企業の人材採用や顧客基盤の将来性にも直結します。
「AIの台頭」は一部のIT企業の話ではなく、自社の業務効率化やサービスモデルの変革にもつながる可能性を秘めています。
つまり、メガトレンドとは、大企業の遠い話ではなく、“自社の足元”を揺るがす要因でもあるのです。
だからこそ、中小企業経営者にとって必要なのは、
「これは自分たちには関係ない」と思考停止するのではなく、
“このメガトレンドを、自社の経営にどう引き寄せるか”という問いを立てることだと思うのです。
経営の「前提」を疑う──バイアスの存在
ここで、もう一つ重要な視点があります。それは、経営者自身が持っている“経営の前提”を、いかに疑えるかということです。
人は誰しも、これまでの経験から意思決定の「癖」を持っています。
「この業界ではこれが常識だ」「うちは地元密着型だから」「顧客はこういうものを求めている」──こうした思い込みが、変化の兆しを捉える感度を鈍らせるのです。
とりわけ、安定的に経営を続けてきた企業ほど、「今までうまくいっていたやり方」への信頼が強く、それが無意識のバイアスとなって変化の芽を潰してしまう危険性があります。
PEST分析とは、本来この「経営の前提」を一度“ゼロベース”で見直すための思考装置であるべきです。
ネオPEST分析──“評論”ではなく“行動の仮説”を
こうした背景を踏まえ、私が提案したいのが、「ネオPEST分析」というアプローチです。
ネオPEST分析の特徴は、次の3点です:
① 単なる外部環境の整理で終わらせない
→ 「それが自社にどう関係するのか?」まで必ず踏み込む
(例:「生成AIが進化している」→「自社の顧客対応や資料作成で活かせないか?」)
② 経営の前提を揺さぶる問いを立てる
→ 「今までのやり方は、変化に適応できているか?」を自問する
(例:「顧客が来店するのが当然」→「本当に顧客は来たがっているのか?」)
③ 最後は“行動の仮説”で終わる
→ 「だから、自社は何を試すか?どこに資源を振るか?」を明文化する
ネオPEST分析のステップ(実践編)
以下は、実際にネオPEST分析を行うためのフローです。ワークショップや経営会議でも活用可能なステップです。
STEP1|メガトレンドを抽出する
- 信頼できる情報源(新聞、統計、専門誌、レポート等)から、今の時代に影響を与えている変化を洗い出す
- P(政治)、E(経済)、S(社会)、T(技術)の視点で分類する
STEP2|自社に引き寄せる問いを立てる
- 「この変化は、自社の何に影響を与える可能性があるか?」
- 「これまでの当たり前が、通用しなくなるとしたら?」
問いの例:
- 少子高齢化 → 今の採用方法は5年後も通用するか?
- 働き方改革 → 固定勤務が前提の運営体制に無理はないか?
- デジタル通貨の普及 → 現金前提のビジネスモデルにリスクはないか?
STEP3|「仮説レベル」でアクションを定める
- 変化に対応するための行動仮説を立てる(小さくてもよい)
- 社内で試す、検証する、検討するなど、動きにつながる一歩を明文化する
実例:メガトレンドを引き寄せた中小企業のケース
たとえば、ある地域の印刷会社では、「紙媒体の衰退=脅威」と捉えるだけでなく、
「高齢者層がスマホ情報に馴染めず、紙の信頼性が逆に高まっている」というニッチな機会を読み取りました。
その結果、高齢者向け行政サービスの告知物を「紙」で受託し、デジタルから一歩離れた強みを再定義することに成功しました。
これは、「社会(S)」の変化を自社に引き寄せ、仮説と実行につなげた好例です。
おわりに──経営に“外の視点”を入れるとは
中小企業経営は、とかく「目の前の現場」に引きずられがちです。
そのリアルさと実行力こそが中小企業の強みである一方、“外部環境をどう読み解くか”という思考は後回しにされがちでもあります。
だからこそ、PEST分析は必要なのです。ただしそれは、評論家のように時流を語るためではありません。
時代のうねりを、自社の経営に引き寄せるための“問いの装置”として使うべきなのです。
そしてそれは、経営者自身が自らの「前提」を疑うところから始まります。
「それ、本当に今も通用する前提か?」
「この変化を、自社にどう引き寄せられるか?」
そう自問するところにこそ、思考の進化があり、そして経営の未来があるのだと、私は考えます。


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