「うちはちゃんと戦略を立てて経営している」
「この事業計画が我々の戦略だ」
そう語る中小企業経営者に対して、私たちはつい、うなずいてその場を終えてしまいがちです。しかし本当にそれは「戦略」と呼べるものでしょうか。あるいは、計画や目標、願望、あるいはその場しのぎの対症療法を、誤って「戦略」として認識しているだけではないか――。
本稿では、中小企業における「戦略の不在」とは何かを掘り下げ、「自分たちは戦略を持っているのか?」という内省のきっかけとなる問いを提示します。
戦略とは「選択」である
そもそも、戦略とは何でしょうか。
多くの定義がありますが、私が中小企業の経営支援をする中で重視しているのは、戦略とは「資源が限られている中で、何に集中し、何を捨てるかを決める行為」であるという視点です。
つまり、戦略とは「選ぶこと」そのものであり、同時に「選ばないこと」を明確にする行為でもあります。
リソースが潤沢な大企業以上に、ヒト・モノ・カネの限界がある中小企業においては、この選択こそが命綱です。
にもかかわらず、現場で見られる「戦略」と称されるものは、どれも「全部やる」計画であることが少なくありません。
あれもやる、これもやる、機会は逃したくない――結果として焦点がぼやけ、手段が目的化し、社員の動きがバラバラになってしまう。
これは、戦略が「無い」のではなく、戦略的な選択が行われていない、という意味で「戦略が無い」と言ってもよいのかもしれません。
「戦略なき戦略」のよくあるパターン
戦略が形骸化しているケースには、いくつかの典型パターンがあります。
① 売上目標が「戦略」になっている
「今年は売上10億円を目指します」
これは目標であって、戦略ではありません。戦略とは、どうやってその10億円を目指すか、という筋道や方向性のことです。数値は重要ですが、それ自体が戦略ではありません。
② 施策リストが戦略になっている
「新商品を出す」「DXを推進する」「営業体制を強化する」――
これらはどれも施策であり、なぜそれをやるのか、他を捨ててまでやる意味があるのか、という判断軸がなければ、それは単なるToDoリストに過ぎません。
③ 外部環境分析の羅列で終わっている
SWOT分析や3C分析を丁寧に行ったものの、それを受けて何を選び、何をやらないかの明示がないケースです。
分析は必要ですが、それ自体は戦略ではなく、戦略の「材料」に過ぎません。
本当に戦略があるかを内省するための5つの問い
では、自社には戦略があると言えるのか――。
その内省のきっかけとして、以下の5つの問いを提示します。
- 「私たちは、誰に、どんな価値を提供する存在なのか」が言語化されているか?
顧客像、提供価値、強みとの接続性が整理されているか。 - 「やらないこと」は明確に定義されているか?
例えば「この顧客層は狙わない」「この価格帯はやらない」など、線引きができているか。 - 「選んだ理由」が、外部環境と自社の強みに基づいて説明できるか?
単なる「思いつき」や「ブームに乗った」ではなく、自社なりの勝ち筋に基づいているか。 - 戦略は、社員が理解し、自走できるほど明確か?
経営者だけの頭の中にあるのではなく、組織全体に浸透しているか。 - 戦略と実行の整合性が取れているか?
現場の施策や行動と、戦略の方向性にズレがないか。
この5つすべてに「YES」と即答できる企業はそう多くないかもしれません。
しかし、これらの問いを立てること自体が、戦略的思考の第一歩になります。
戦略は「動かない旗」であり「変えてよい地図」である
戦略とは、すべてを固定化する設計図ではありません。
不確実性の高い時代において、計画を柔軟に見直すことは不可欠です。
しかし、その中でも「どこを目指すのか」という旗はブレてはいけない。この旗があるからこそ、現場が判断を委ねることなく、自律的に動けるようになります。
つまり、戦略とは「変えてよい地図(手段)」と「変えてはいけない旗(目的と選択)」の両輪でできているのです。
戦略は持つものではなく、「育てるもの」
中小企業においては、経営者が戦略をすべて決めきるのは難しいかもしれません。
しかし、明確な問いと方向性を持ち、社員と共にその戦略を「育てていく」という視点こそが、経営の持続性を生み出します。
戦略の有無を問うのではなく、「自分たちがどこまで選べているか」にフォーカスしてみてください。
そして、定期的に自社の「旗」は立っているのか、その旗は見えているのかを見直す習慣を持つこと。それこそが、中小企業における戦略の第一歩ではないでしょうか。


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