【資金繰りの基本から改善まで】中小企業のための実践シリーズ(第3回)明日の残高が見える安心感──日繰り表の導入と実務チェックポイント

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これまで2回にわたり、中小企業にとっての資金繰り管理の必要性(第1回)と、改善のための具体アクション(第2回)をお伝えしてきました。

最終回となる今回は、資金繰り管理をさらに一歩進め、「日繰り表(ひぐりひょう)」という実務ツールの導入と活用法についてご紹介します。

資金繰りの見える化は、「月次」から「日次」へと深掘りすることで、より精度の高い判断と打ち手が可能になります。
これは、資金繰りに不安を抱える経営者にとっての“安心の源”であると同時に、キャッシュリッチな企業にとっては「強い財務体質を作るためのインフラ」にもなります。


なぜ「日繰り表」が必要なのか?

月次の資金繰り表だけでは、「月末時点では足りるが、途中で一時的に資金が足りなくなる」ケースを見落とすことがあります。
特に、給与や借入返済、仕入支払など、特定の日にまとまった金額が動く企業では、資金ショートの危機が“月の途中”に潜んでいます。

日繰り表は、「1日単位の資金の流れを見える化」することで、

  • 資金ショートの“予兆”を早期に発見
  • 資金手当てのタイミングを最適化
  • 無駄な借入や不要な現金拘束を避ける
    といった経営判断の質を高める支援をしてくれます。

日繰り表の基本構成

以下は、日繰り表の代表的なフォーマットです。ExcelやGoogleスプレッドシートでの作成が一般的です。

| 日付 | 前日残高 | 入金予定 | 支払予定 | 小計 | 借入/振替 | 当日残高 |
|——–|———-|———-|———-|———-|———–|———–|
| 6/17 | 3,000千円 | 1,000千円 | 1,500千円 | 2,500千円 | 0千円 | 2,500千円 |
| 6/18 | 2,500千円 | 500千円 | 2,000千円 | 1,000千円 | 1,500千円 | 2,500千円 |


日繰り表の作成ステップ

① 定期的な入出金の洗い出し

家賃、給与、借入返済、税金など、定期的に発生する支出を日付ベースで整理。
売上の回収日や入金サイクルもカレンダーに落とし込みます。

② 取引先ごとのタイミングを反映

入金予定や支払い予定を、取引先別に把握し、具体的な日付で記入することで、より現実に即した表が作れます。

③ 資金ギャップへの対応策を組み込む

資金残高が一定金額を下回ると予測される日には、あらかじめ

  • 借入の準備
  • 支払いのリスケ交渉
    などを記載し、事前の行動につなげる仕掛けとします。

運用のコツ:毎日の習慣に落とし込む

● 毎朝10分、今日と明日を確認

「支払いに問題がないか」「ズレが発生していないか」を確認するだけでも、資金感覚は大きく変わります。

● 週末に1週間分を更新

金曜または週末に、翌週以降のデータを更新し、予定と実績のズレを点検。これが精度向上の鍵となります。

● ズレの分析で“現場の実態”が見える

入金遅れの原因は?請求のタイミングに問題は?
こうした振り返りが、経理や営業の現場改善にもつながります。


キャッシュリッチ企業にとっての日繰り表

日繰り表は「資金繰りに困っている会社」だけのものではありません。
むしろ、資金に余裕のある企業こそ、日繰り表を使いこなすことで財務体質をもう一段高めることができます。

● 余剰資金の運用判断が精緻になる

資金の流れを把握できていれば、

  • 一時的に余るキャッシュを定期預金や短期運用に回す
  • 無駄な預金残高を避け、投資や人材採用に振り向ける
    など、資金活用の「選択肢」と「タイミング」の精度が格段に上がります。

● 財務管理の透明性と説明力を向上

銀行や株主、幹部層への説明において、「今後1ヶ月の資金の動き」が即座に出せることは、高い信頼性の証しとなります。

● 意思決定のスピードと質を高める

新規投資、設備購入、人材登用など、「攻めの決断」を下すとき、日繰りの精緻な見通しがあるかどうかは、勝負所での判断の質を左右します。


終わりに:日繰り管理は「経営の筋力」を鍛える習慣

日繰り表の運用は、最初は手間に感じるかもしれません。
しかし、毎日10分、毎週30分の習慣が、

  • 財務の異常をいち早く察知する感度
  • 攻めの経営判断に踏み出す自信
  • 社内のコスト意識や業務改善の促進
    といった形で、経営全体の“筋力”を確実に高めてくれます。

資金繰りの精度は、経営者の判断力に直結します。
ぜひ今日から、1枚のシートで「お金の動きと向き合う時間」を作ってみてください。
その積み重ねこそが、強く、しなやかな財務体質をつくる一歩です。

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