『MBA実践録#04─人材マネジメント─人材マネジメントを「制度」から「実践」へ──ヒトの力を引き出す経営とは』

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Business people using whiteboard in meeting

2024年にMBAを修了してから1年。今回は「人材マネジメント」で得た学びをもとに、私自身の実体験と照らし合わせながら、現場で生かすべき本質的な視点について考えてみたいと思います。制度や理論だけで語れない「人の力をどう引き出すか」というテーマに向き合ったこの学びは、私の中に深い気づきをもたらしました。

HRMとリーダーシップ──組織を動かす“車の両輪”

人材マネジメント(HRM)とリーダーシップは、しばしば別物として語られがちですが、この2つが「車の両輪」として機能してこそ、組織は戦略を遂行できるという認識を得ました。

私は以前、評価制度や配置に関する運用を管理職として担当していた時、「なぜメンバーが制度に納得してくれないのか?」と悩んでいました。制度を作っても、運用するミドルマネージャーの意識が変わらなければ、現場は動かない。結局、魂を込めてミドルに訴えるプロセスが抜け落ちていたのだと、ある企業のケーススタディから感じ取ることができました。

このように、HRMとリーダーシップの間には重なる領域が存在し、7S(戦略・構造・制度・価値観・スキル・スタイル・人材)という枠組みで両者の整合性を俯瞰的に捉えることで、より立体的に組織課題を考えられるようになりました。

また、HRMに求められる「クールヘッド」(冷静な論理性)と、リーダーシップに求められる「ウォームハート」(情熱と共感)は、一見対立するようでいて、実は共存させることが組織マネジメントの核心であると実感しています。組織の目標に向けた制度設計と、それを人に落とし込む際の情緒的なマネジメント。この両利きを意識してこそ、組織は真に機能するのではないでしょうか。

「会社の憲法」としての人事システム──評価制度にどう向き合うか

人事システムは単なる制度ではなく、戦略を実現するための“会社の憲法”だという考え方に、強い納得感を覚えました。過去、部下から評価への不満をぶつけられた際、制度の意図や背景を理解していないまま、その場を取り繕うような面談をしていたことを思い出します。

今思えば、私自身が人事制度の背後にある戦略やポリシーを腹落ちさせておらず、「これは会社の根幹なんだ」と伝えるだけの覚悟と理解がなかった。これは多くのミドルマネージャーに共通する課題ではないでしょうか。

「上位戦略」から考える人材マネジメント

人事施策の議論では、どうしてもモチベーションや採用などの個別論点にフォーカスしがちです。しかし、まず考えるべきは「上位戦略」です。

私の前職でも、毎月の経営会議で「人が足りない」「採用がうまくいかない」といった声が挙がっていましたが、「何のためにその制度を変えるのか?」という本質的な問いに答えられないまま、議論が空中戦になることが頻発していました。

人材マネジメントは“ロジックの通用しにくい領域”だからこそ、組織として人材マネジメントの上位方針たる経営戦略を明確にし、共通言語に落とし込むことが、混乱を防ぐ鍵だと強く実感しました。

制度に“絶対の正解”はない──多様性と文脈の理解

「人事制度に絶対的な良し悪しは存在しない」という考え方には、大きな気づきがありました。確かに、一見ブラック企業とされる組織でも、その制度が合理的に機能している場合がある。

私は「良い働き方=働き手にとって優しいこと」のような価値観に偏っていた節があり、制度は常に“従業員の味方”であるべきだと思い込んでいました。しかし本来、制度は戦略実行のための手段であり、組織が置かれた環境や目指す姿に応じて柔軟に設計されるべきもの。制度を語るには、その背景にある組織文化や戦略との整合性を踏まえた文脈理解が不可欠なのだと痛感しました。

目標管理制度の本質──“誘導する”マネジメント

目標管理制度と目標設定理論の違いを明確に理解できたことも、大きな学びでした。目標管理制度は「個人が自ら目標を設定する」仕組みだと思い込んでいましたが、実際には「組織目標を分解・連鎖させて、個人に繋げていく」ことが本質です。

過去の私は、部下の自主性を重んじるあまり、「自分自身がコミット出来るのであれば、好きな目標を立てていいよ」と伝えていましたが、結果として戦略と結びつかない目標が並ぶこともありました。「目標の誘導=悪」ではなく、組織目標を基にした“目標の選択肢”を提示し、その中で納得を促すのがミドルの役割なのだと気づかされました。

組織文化を育てる──制度と人の接点から

組織文化は、放っておけば形成されるものではなく、意図的に設計し、発信し、対話を通じて浸透させていくべきものです。

私の経験では、あるプロジェクトが急速に拡大した際、初期メンバーの価値観が次第に薄れ、形骸化していく過程を目の当たりにしました。エピソードや儀式、シンボルや言語など、文化を“見える化”し、共感と実践を通じて育てていく必要がある──その視点を持てるようになったのは大きな進歩でした。

また、制度改定や人材配置といった一見ハードに見える要素も、実は文化を形成するためのメッセージになります。「人事制度は3割が設計、7割が運用」という言葉の通り、制度は導入して終わりではなく、運用と対話の中で文化に転化していくものだという実感があります。

中小企業におけるHRMのリアリティ

私が関わる中小企業では、リソースも制度も限られた中で人材マネジメントをどう機能させるかという悩みが尽きません。しかし、今回の学びを通じて、制度そのものよりも「それをどう運用するか」「何のために導入するか」の方が重要であることを再認識しました。

たとえば評価制度一つとっても、完璧な制度を目指すより、ミドルがその背景や意図をきちんと語れる状態を作ること。あるいは、新しく入った人材が馴染めずに去ってしまうリスクに対しては、「彼らは企業特殊能力を持たない」という前提に立ち、支援体制を設計すること。

制度を整えることと同じか、それ以上に、「制度と人との接点」にこそ、マネジメントの本質があるのだと今では思います。


次回は、改めて私の専門分野である「アカウンティング」の分野をテーマに、組織マネジメントと数字の接点について掘り下げてみたいと思います。引き続き、ご一読いただければ幸いです。

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