「知らない」ことすら知らなかった――中小企業経営者に問う、外部リソース活用という選択肢

「人が足りない」「時間がない」「ノウハウがない」。
中小企業の現場では、こうした声が日常のように聞かれます。経営者は人手不足に頭を悩ませ、現場では属人化が進み、やるべきことを前に動きが止まる。まさに“リソース不足”という言葉が飛び交う毎日です。
しかし、私は最近こう考えるようになりました。「リソースが不足している」などという段階はもう過ぎており、「そもそも自社にはリソースが無い」という前提に立つべきではないかと。限られた経営資源で結果を出すためには、もはや“外部の力”を使うことが当たり前の選択肢であるべきなのです。
自前でなんとかする、という幻想
ところが現実には、そうした外部活用の発想が中小企業の経営現場に根づいているとは言いがたい。特に気になるのは、「外に頼る」という選択肢をそもそも認知していない、あるいは“外を使う”ことに心理的な抵抗を持つ経営者が少なくない、という点です。
「他人に任せるのは不安だ」「自社のことは自分たちが一番分かっている」「お金がかかるだろうから無理だ」。
こうした言葉には、確かに一理あります。しかし、その多くは根拠のない“自前主義”に過ぎないのではないでしょうか。もっと言えば、「知らない」ということに気づいていない——すなわち“無知の知”が欠如している状態にあると感じます。
なぜ「外を使う」という発想が持てないのか
中小企業の自前主義には、いくつかの構造的な背景があります。
ひとつは、「なんでも自分たちでやってきた」という成功体験です。創業時から身を粉にして現場を回してきた経営者にとって、外部の力に頼ることは“甘え”や“逃げ”と映ることもあります。
もうひとつは、情報の非対称性です。多くの中小企業には「どう探せばいいか分からない」「信頼できる外部人材が周りにいない」といった実務的な障壁があり、それが判断そのものを止めてしまっている。結果として、外部活用は「知らないまま、選択肢にも上がらない」という盲点になってしまうのです。
この状態こそが、経営における最大のリスクです。経営とは選択の連続ですが、そもそも“選択肢が見えていない”状態では、正しい意思決定の土台が成立しません。
外部リソースの活用にはどんな選択肢があるのか
では、そもそも外部の力とはどんなものがあるのでしょうか。以下に代表的なものを整理してみます。
- 業務委託(フリーランス・個人事業主):バックオフィス業務、マーケティング、採用支援など
- 専門家(税理士・社労士・中小企業診断士など):特定領域の助言や代行業務
- 顧問・外部CFO・アドバイザー:経営判断の壁打ち相手、財務戦略立案など
- クラウドツール・SaaSサービス:人の代わりにシステムが担う業務の自動化
- 業者やBPO企業:製造、物流、カスタマーサービスのアウトソーシング
これらはすべて、自社内に持たなくてもよい機能、すなわち“他者の力で補える領域”です。特に昨今では、クラウドツールやオンライン顧問の普及によって、コストも下がり、距離の制約も小さくなっています。
外部を使うことで得られる“視座の転換”
外部の力を使うことには、単なる「業務負担の軽減」以上の意味があります。それは、経営者自身の視座を広げてくれるという点です。
専門家や外部人材と対話することで、自社の課題を客観的に見ることができる。思いもよらなかったリスクやチャンスに気づける。さらには、「自分たちはこれが得意だったのか」と、強みにも気づけることがあります。
つまり、外部を活用することは“リソースを増やす”行為であると同時に、“自社の再定義”にもつながるのです。
もちろん、外部活用にはデメリットもあります。相性の問題、コスト、情報漏洩リスクなど、懸念すべき点はあります。しかし、それは「適切な選定」と「最初の設計次第」でコントロール可能な問題です。それよりも、“そもそも選択肢を知らないまま経営する”という無防備さの方がはるかにリスクは大きい。
経営者が問うべきは、「私は何を知らないのか」
経営とは、無数の「知らなかった」に直面する営みです。むしろ「知らないことを知る」「知らないことに気づく」という態度を持ち続けられるかどうかが、経営の質を大きく左右します。
リソースがない、という事実を前提にしたとき、問うべきは「どう補うか」ではなく「誰と経営するか」。その視点を持てるかどうかが、自前主義から脱し、持続的な成長へと向かう最初の一歩になるはずです。
【次回予告】「外を使う」ことが経営者にもたらす本質的な変化とは?
今回の記事では、中小企業経営における“外部リソース活用の盲点”を取り上げ、「知らない」ことを認識する重要性——すなわち“無知の知”——について整理しました。
では、実際に外部の力を活用するとき、どのような選択肢があり、それぞれにどのようなメリット・デメリットが存在するのでしょうか?
また、外部の力を取り入れることが、単なる「業務の外注」ではなく、経営者自身の視座にどのような変化をもたらし、さらには組織全体のケイパビリティ(組織的能力)醸成につながっていくのか——。
次回は、「外部リソース活用の実際とその本質的な効果」を掘り下げてお届けします。
実務と思想、その両面から、より深い経営のヒントをお届けできればと思います。
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