「人が来ない」を嘆く前に──中小企業が本気で採用と向き合うための視点転換

中小企業の経営者と日々向き合う中で、必ずと言っていいほど話題に上がるのが「採用がうまくいかない」という悩みです。
求人を出しても応募がない。若手が来ない。来てもすぐに辞めてしまう。社員の平均年齢は年々上がり、事業承継の道筋も見えない──。

こうした声を聞かない日はありません。これは決して個別の企業に限った問題ではなく、業種・地域・規模を問わず、多くの中小企業が直面している構造的な課題です。

ただ私は、この「採用難」が、決して打つ手のない絶望ではないと感じています。
むしろ、今の時代に合った“視点の転換”と“本気の覚悟”があれば、中小企業にしかできない採用戦略が見えてきます。


■ 中小企業が採用に苦戦する4つの理由

まずは、なぜ中小企業がこれほど採用に苦しむのか、その背景を整理してみましょう。

①「知名度の壁」──まず見つけてもらえない

求人サイトに載せたとしても、大手やブランド企業の求人に埋もれてしまい、そもそもクリックすらされない。これは企業としての「発信力」の問題でもあります。

②「情報不足」──魅力が正しく伝わっていない

仮に会社の存在を知ってもらえても、「どんな会社なのか」「どんな人が働いているのか」「どんな価値観で経営しているのか」といった情報がほとんど見えないままでは、候補者は応募をためらいます。

③「場当たり的な採用」──常に“急募”でしかない

「辞めた人の補充を急ぐ」といった短期的な対応ばかりになってしまい、採用活動が突発的で一貫性がない。だから、継続的な母集団形成ができない。

④「経営者の本気度」──採用を“他人事”にしていないか?

経営者自身が「人がいない」と口では言いながら、採用に本気で向き合っていないことも少なくありません。時間も情報も発信もしない。覚悟が足りない。


では、この構造的な課題に対して、我々中小企業はどう立ち向かえばいいのか。
鍵は、「採用のための活動」にリソースを割こうとするのではなく、「日々の活動すべてを採用に繋げる」という視点の転換にあります。


目次

■ 採用は“特別な活動”ではなく、経営の一部である

大企業は、専任の採用担当者がいて、採用サイトに予算をかけ、プロのカメラマンに写真を撮らせ、PR動画まで作る。私たち中小企業には、そんなリソースはありません。

だからこそ発想を変える必要があります。

「採用のために何をするか」ではなく、「今やっていることが採用にどう繋がるか」。

この発想に立てれば、日常の業務、営業、広報、顧客対応、経営者の発信……あらゆる活動が「採用の導線」に変わります。

以下、具体的な施策をご紹介していきます。どれも“特別なこと”ではありません。中小企業が、明日から実行可能な「現実的な打ち手」です。


■ 実行可能な採用施策──リソースゼロでできる5つの工夫

① Webサイトを“採用目線”で見直す

営業目的で作られた会社ホームページ。その情報は、求職者にも響いていますか?

求職者は求人票だけでは判断しません。むしろ企業のWebサイトやSNSを細かくチェックしています。
「経営者の考え方」「社員の雰囲気」「どんな人が活躍しているのか」「成長できる環境があるのか」。これらが伝わっていなければ、応募には至りません。

✔ 代表メッセージに“仕事観”や“人材観”を入れる
✔ 社員紹介ページを設け、写真+コメントを載せる
✔ 採用情報に「どんなキャリアを描けるか」のストーリーを加える

たったこれだけでも、企業の印象は大きく変わります。


② 経営者の発信を“採用活動”として捉える

求職者が一番見ているのは、経営者自身です。
理念、言葉、振る舞い、言動の一貫性──それが「この会社で働きたい」と思わせる最大の要素です。

noteやSNSで、自社の取組や失敗談、社員への想いを言語化して発信している企業には、人が集まります。なぜなら、「経営者の顔が見える会社」ほど、安心感と共感を得やすいからです。


③ 社員を“採用の共犯者”にする

社員こそが、企業文化を最もリアルに伝える存在です。
若手社員にインスタで日常を投稿してもらう。ベテラン社員にnoteで「私のキャリア」を書いてもらう。リファラル(社員紹介)で採用した場合に報奨金を用意する──。

採用は経営者だけが担う時代ではありません。社員全員が「共犯者」になって初めて、会社の魅力は伝播していきます。


④ 顧客接点・展示会・地域活動も“採用チャネル”になる

普段の営業活動、地域の祭りやイベント、協業先との打ち合わせ──それらのすべてに求職者との接点が眠っています。

特に地域密着の企業は、「地域の中で信頼されていること」そのものが、強い採用ブランドになります。

例えば、

  • 展示会で学生のインターン募集チラシを配る
  • 地元大学との連携で出張授業を行う
  • 地域のメディアで社員の特集を組んでもらう

これらも、全て立派な“採用活動”です。広告費0円でできる認知獲得の手段は、実は身の回りに溢れています。


⑤ 採用における“見える物語”を持つ

最後に最も重要なのが、「この会社には未来がある」と思わせるストーリーです。

理念やビジョンが曖昧なままでは、誰も付いてきません。大企業のようにブランド力で引き寄せることができない分、経営者がどこに向かおうとしているのか、それが言語化されていることが極めて重要です。

「まだ形にはなっていないけれど、何か面白そうだ」「この会社なら、自分も一緒に成長できそうだ」
そんな期待を抱かせるのが、中小企業の“採用ブランディング”なのです。


■ 採用の本質は「経営の覚悟」である

採用に成功している中小企業には、共通点があります。
それは、経営者が本気で採用に向き合っていること。
言葉ではなく、時間とエネルギーを割き、自ら発信し、社員を巻き込んでいることです。

人材が集まらないのは、時代や地域のせいだけではありません。
私たち自身が、採用を経営の中心に据えようとしているか?
そこにこそ、本当の課題があります。


■ 終わりに:未来を共に創る人を、本気で迎えにいく

中小企業にとって、採用とは「選ばれるための戦い」ではなく、「共に歩む人を本気で迎えにいく」営みです。

限られたリソースの中でも、日常をデザインし直せば、採用の導線はいくらでも創れます。
むしろ、小さな会社だからこそ、顔の見える採用ができる。社員一人ひとりが語れる物語がある。

そして、そういう企業こそが、これからの時代に選ばれていくのだと、私は思います。

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