業務の現場において、エクセルやワードは長らく「最も身近なITツール」として使われてきました。帳票、計画、報告、分析——これらの業務を、手元のファイルで柔軟に処理できる点が強みでした。しかし、業務の高度化・複雑化が進み、情報の一元管理やリアルタイム性が求められる中で、エクセルベースの運用に限界を感じる場面も増えてきています。
私自身、財務領域を専門にしながら、MBAとデジタルの視点を掛け合わせて思考を深めてきました。その中で今、強く実感しているのが「自分自身が業務アプリを作成する力を持つことの意義」です。そして、これを私は「プロトタイパーになる」と表現しています。
誰でもアプリを作れる時代に
かつて「アプリを作る」と言えば、プログラミングスキルを持つエンジニアの専業領域でした。しかし、現在はその前提が大きく崩れつつあります。
私が活用しているのは、「bolt」というAIアプリ作成ツールです。プロンプト形式で指示を出すことで、UI設計からデータ構造、基本機能まで自動で構築され、ノーコードで業務アプリが立ち上がります。しかも、生成されたアプリはカスタマイズも可能で、日々の運用に即した形に育てていくことができます。
このようなツールの登場により、「アプリ開発は特別なスキルを持った人がやること」という固定観念は崩れ始めています。いまや、現場の業務を最もよく理解している人間こそが、自ら業務アプリを作ることが可能になったのです。
エクセル管理からアプリへ——タスク管理の置き換え
実際に私も、これまでエクセルで運用していたタスク管理の仕組みを、boltを使ってアプリに置き換えました。
従来のエクセル管理では、情報の更新漏れやファイルの共有ミス、フィルタ処理の煩雑さなど、日常的なストレスがありました。それに対し、アプリ化することで、タスクの入力・進捗管理・ステータス更新がすべて一元的に管理でき、操作性も向上しました。ユーザーごとのタスク表示や、期限が近いタスクの抽出なども自動で行えるため、情報の見える化が一気に進みました。
何よりの収穫は、「自分自身の手で業務を最適化できる」という手応えです。外部に委託するのではなく、自分の業務理解と仮説に基づき、プロトタイプを自作する。このアプローチは、改善のスピードと精度を大きく高めてくれます。
「AIファースト」で取り組む中小企業にこそ、チャンスがある
特に強調したいのは、デジタル関連部署が存在しない中小企業にこそ、アプリ化による改善余地が非常に大きいということです。
IT人材が社内におらず、システム開発に多額の投資をかけるのも難しい。そんな状況だからこそ、「AIファースト」の発想が力を発揮します。最初から全体最適や完全自動化を目指すのではなく、小さな業務をAIと一緒に作ってみる。必要な機能だけを備えたプロトタイプを自作して、日々の業務に少しずつ組み込んでいく。
こうしたアプローチは、ITに対する苦手意識を乗り越える足がかりとなり、内製による改善文化の第一歩になります。そしてこのプロセスを現場主導で進められることが、中小企業の競争力の源泉になると私は考えています。
プロトタイパーの視点がもたらすもの
プロトタイピングの価値は、単なるIT化にとどまりません。自らプロトタイプを作るプロセスには、業務の本質的な再理解が伴います。「なぜこの業務が存在しているのか?」「どこに非効率が潜んでいるのか?」——こうした問いを通じて、業務そのものを根本から見直すきっかけが得られます。
また、プロトタイプがあれば、他者とのコミュニケーションも格段に進めやすくなります。抽象的な要望ではなく、具体的な画面やフローに基づいた議論ができることで、フィードバックの質が高まり、改善のサイクルが加速します。
まとめ:「試作から始まる」業務改革
AIによる業務アプリの自作は、単なる効率化にとどまらず、組織の働き方や思考のスタイルそのものを変える可能性を秘めています。
中小企業にとって、限られたリソースで効果的な改善を実現するには、「完璧を目指さず、まず動かす」姿勢が必要です。そのために、プロトタイパーとしての視点を持つことは、今後ますます重要になっていくでしょう。
業務改善の出発点は、日々使っているエクセルかもしれません。そこから「自分で作るアプリ」へと一歩踏み出すことで、未来への扉は確実に広がります。中小企業こそ、「AIファースト」で現場の力を引き出す主役なのです。
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