経営フレームワークを持つということ【第2回】SWOT分析は相対化から始まる──主観を超えて戦略につなげるために

経営戦略を考える際、まず最初に取り組むフレームワークとして定番なのがSWOT分析です。
自社のStrength(強み)Weakness(弱み)Opportunity(機会)Threat(脅威)を4象限で整理することで、全体像を把握し、戦略の方向性を定めようとするものです。

多くの経営者が一度は経験しているであろうこの分析。しかし、私自身がコンサルティングの現場で最も感じるのは、SWOT分析が「主観の羅列」で終わってしまっているケースが非常に多いということです。

特に、「自社の強みは何か?」という問いに対して、主観ベースで思いつくままに挙げられた項目が、実は他社も当たり前にやっていることだったという場面は少なくありません。

本稿では、SWOT分析においてなぜ「相対化」が鍵になるのか。そして、そこから戦略につなげるために不可欠な「クロスSWOT」の重要性を、実践的な視点で解説していきます。


「強み」は主観ではなく、相対評価である

SWOT分析に取り組む際、多くの経営者がこういった「強み」を挙げます。

  • 顧客との長期的な信頼関係
  • 小回りのきく対応力
  • 製品やサービスの品質の高さ
  • ベテラン社員が多い

これらは確かに、自社の特徴ではあるかもしれません。
しかし、それは競合と比較して初めて「強み」になり得るのであって、単体で挙げただけでは単なる現状の記述にとどまります。

たとえば、「小回りがきく」という特徴は、規模の小さい企業なら多くが持っているでしょう。つまり、相対的な優位性がなければ、それは“業界の標準装備”であり、強みとは言えません。

強みとは、「他社にはない、もしくは模倣しづらい自社の競争優位性」であるべきです。
したがって、「自社にとって当たり前のこと」をいかに相対化して見直せるかが、SWOT分析の本当のスタートラインになります。


強み・弱みを相対化する3つの問い

では、強みや弱みを相対的に捉えるためには、どのような問いを立てればよいのでしょうか。
実務の中で有効だと感じているのは、次の3つの視点です。

① 競合比較の視点

  • 競合他社も同様のことをしていないか?
  • それにおいて、自社はどう優れているのか?

自社の特徴が、業界の中でどの位置にあるのか。競合と比較することで、差異の輪郭が見えてきます。

② 顧客視点での価値検証

  • 顧客はそれを強みとして認識しているか?
  • 実際にその特徴が顧客の満足や選択理由につながっているか?

経営者が「強み」と感じていることと、顧客が「価値」と感じていることがズレているケースは意外と多い。顧客の声や行動データから裏付けることが不可欠です。

③ 数値・事実での裏付け

  • 主観ではなく、定量的・事実ベースで語れるか?

「対応が早い」と言うなら、どの程度早いのか。他社と比べてどうなのか。数値や実績があってこそ説得力が生まれます。


SWOTの質が戦略の具体性を決める

SWOT分析は、4象限を埋めただけで終わってはいけません。
重要なのは、「掛け合わせてみて、具体的な打ち手が出てくるかどうか」です。ここから先が、いわゆるクロスSWOT分析の領域です。

たとえば、以下のように各要素を組み合わせて思考を深めます:

▼強み(Strength) × 機会(Opportunity)
→ 攻めの戦略:自社の強みを活かして、新たな市場や成長の機会を積極的に取りにいく戦略
(例:短納期体制を活かして即決系ニーズの高い市場に進出)


▼強み(Strength) × 脅威(Threat)
→ 守りの戦略:自社の強みで、外部環境の変化や競争激化などのリスクを抑制・回避する戦略
(例:高い顧客ロイヤルティを活かして価格競争を回避)


▼弱み(Weakness) × 機会(Opportunity)
→ 改善戦略:チャンスを逃さないために、自社の弱点や制約を克服・改善する戦略
(例:人材不足を解消するための採用強化・業務の標準化)


▼弱み(Weakness) × 脅威(Threat)
→ 回避・撤退戦略:最悪の事態を防ぐために、リスクが集中する領域から撤退・回避を検討する戦略
(例:利益率の低い事業から段階的に撤退し、リソースを再配分)

このマトリクスに情報を当てはめたときに、「なるほど、こういう打ち手が考えられる」と思えるかどうかが、一つの評価軸になります。


打ち手が出る/出ないの違いとは

では、クロスSWOTで「打ち手が出る/出ない」の違いはどこにあるのでしょうか?

ポイントは、SWOTに記述された内容の“具体性と客観性”の有無です。

たとえば、次のような記述では、掛け合わせても打ち手は見えてきません:

  • ✕「技術力が高い」
  • ✕「対応が早い」
  • ✕「顧客との関係が良好」

これらは曖昧であり、競合も同じように言える可能性があります。裏付けがなく、戦略的示唆に乏しいのです。

一方で、以下のような記述があればどうでしょうか?

  • 〇「特殊鋼材における加工精度で、他社の平均誤差0.1mmに対し、自社は0.03mmを維持」
  • 〇「初回問い合わせから4時間以内に見積提示する体制を整備し、同業平均(2日)に比して圧倒的に早い」
  • 〇「直販比率85%、小売を通さず価格主導権を持つ収益モデル」

こうした記述には具体的な差別化ポイントが含まれており、たとえば:

  • この短納期対応力を活かして、即決ニーズの高い建設業界に特化する(S×O)
  • 価格主導権を活かしてインフレ耐性を強化する(S×T)

など、自然と打ち手が導かれる構造になります。

このように、SWOTの記述が曖昧であれば、クロスしても戦略が出てこない。一方、具体性と客観性があるほど、掛け合わせによって実効性あるアクションが浮かび上がる。

という明確な因果関係が存在しているのです。


SWOT分析を“やりきる”ための工夫

現場でSWOT分析を効果的に行うには、以下のような工夫が有効です:

  • 幹部・現場メンバーも巻き込み、多面的に視点を集める
     → 経営者一人の主観から脱却する
  • 競合調査や顧客アンケートを参考にする
     → 相対化の材料を得る
  • 第三者(顧問、コンサル、外部支援者)を入れる
     → 無意識のバイアスや思い込みを指摘してもらう

SWOT分析は「一人で考え込むもの」ではなく、「問いを共有しながら、構造を見出すプロセス」だと捉えることが重要です。


おわりに──「それは本当に強みか?」と問い直す

SWOT分析は、よく知られた手法だからこそ、形式的に終わってしまうリスクもあります。
とりわけ「強み」を挙げる場面では、自社の当たり前を過信しやすい。だからこそ、「それは他社にとっても当たり前なのではないか?」という視点を常に持ち続けることが必要です。

そして、SWOT分析は4象限を書くだけでは終わりません。クロスSWOTで打ち手まで落とし込むことによって、ようやく“戦略の入り口”に立てるのです。

次回は、3C分析やバリューチェーン分析など、SWOTと併用することでさらに戦略の解像度が高まるフレームワークを取り上げていきたいと思います。

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