株を配るという発想──「カブアンド」に見る、共感資本主義と中小企業の現実解

「会社の成長と従業員のモチベーションのベクトルを合わせる」。経営者にとって永遠の課題とも言えるこの問いに、ユニークなアプローチを示したのが、前澤友作氏が手がける「カブアンド」です。

誰もが企業の“仲間”として、株式報酬のような仕組みで企業価値の一部を分かち合う。そんな共感資本主義の具現化を目指す試みは、企業経営の在り方に一石を投じています。

本稿では、この挑戦的なモデルから中小オーナー企業が何を学べるか、そして「株は渡せない、でも未来を一緒に作りたい」企業が採り得る現実的かつ手触り感のある打ち手として、ファントムストックという選択肢を深掘りしていきます。


目次

カブアンドが問う「企業と個人の新しい関係」

カブアンドの本質は、「価値創出に関与するすべての個人が、その成果を“株式的に”享受できるようにする」ことにあります。社員、取引先、インフルエンサー、顧客……あらゆる形で企業に貢献する人たちと、企業の未来価値を分かち合う。しかも、それを上場や実株の移転に頼らず実現しようとする。

これは単なる福利厚生の話ではありません。“仕事”や“取引”という関係を越えた、ミッション共感型のつながり方です。そしてこれは、大企業だけの話ではなく、本来は中小企業こそが得意とすべき営みではないかと思うのです。


中小企業の現実──株式報酬は遠くても、理想は捨てたくない

一方で、我々が向き合う現実も冷静に見なければなりません。

「うちの会社では株なんて渡せない」「M&AもIPOも予定ない」「株価の評価もできない」――これは多くの中小企業経営者にとって、ごく自然な感覚でしょう。

株式報酬というと、どうしても“上場準備企業”や“ベンチャー”の文脈になりがちです。しかし、本質は「企業の未来価値を、どう仲間と分かち合うか」という設計思想にあります。

カブアンドのようなラディカルな仕組みをそのまま導入できなくても、「株を配る」という象徴的な発想を、“中小企業の文脈に翻訳”することはできるはずです。


現実解としてのファントムストック──「渡さずに共有する」仕組み

その具体的な選択肢の一つが、ファントムストック(Phantom Stock)です。これは、実際に株式を発行・譲渡することなく、あたかも株を保有しているかのように「企業価値の増加分」を将来、報酬として還元する仕組みです。

たとえば、幹部社員に対して「5年後の企業評価額が今より5,000万円高くなったら、その10%=500万円を報酬として支払う」といった形で設計できます。

株主構成を一切動かさず、ガバナンスに影響を与えず、しかし従業員には“会社の成長が自分の利益になる”という感覚を持ってもらえる。中小オーナー企業にとって、これはまさに理想と現実の間に橋をかける制度と言えるのではないでしょうか。


ファントムストックのメリットは、制度以上の心理効果にある

中小企業でファントムストックを導入する意味は、単に報酬の多様化ではありません。

重要なのは、「社員と共に未来を創る」経営者の意思表示になるという点です。株式を実際に渡さなくても、「企業の価値は皆の力で高まる。その成果は一部、しっかり還元する」というメッセージは、幹部に強い信頼と当事者意識を生みます。

また、評価基準の設計(たとえばEBITDAや営業利益の成長)を通じて、会社の“評価軸”を社員と共有できるという副次効果も見逃せません。これは、制度の効果として極めて大きいものです。


カブアンド的世界観と、中小企業の“翻訳力”

カブアンドが示しているのは、「信頼」「共感」「関係性」を“資本のように扱う”世界です。

中小企業にとって、それを実現する手段は、かならずしも実株を配ることではありません。理念への共感を、制度化する工夫こそが鍵です。

ファントムストックは、その一つの翻訳例です。

他にも、M&Aを見据えた成果分配型ボーナス制度、疑似持株会のような擬似的な「未来分配契約」、あるいは企業価値成長に連動した退職金設計など、手法はいくらでも工夫できます。

大切なのは、「会社がよくなれば、あなたにも報いる。その構造を経営として明文化している」ということ。それが、社員を“共感資本主義の仲間”に変える第一歩になるのではないでしょうか。


結びに──小さな会社にこそ、株を配る“覚悟”がある

株式を配るか否かは、規模ではありません。むしろ、「会社を共に作る仲間に、未来の果実をどう渡すか」という設計思想の問題です。

カブアンドが問いかけているのは、“資本”を通じて「関係のあり方」を変えられるか?という挑戦です。中小企業でも、ファントムストックのような手段を使えば、社員と企業のベクトルを本質的に重ねることが可能になります。

株を渡すか、渡さないか。それ以前に、「未来を、誰と分かち合うか」という問いに向き合えるかどうか。それが、これからの中小企業経営の勝負どころなのかもしれません。

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