『MBA実践録#09─ストラテジック・リ・オーガニゼーション─再生は「文脈」から始まる──企業再生の現場思考』

「企業再生」というテーマは、私にとって極めてリアルな関心領域です。日々の実務で多くの再生企業と向き合う中で、「ストラテジック・リ・オーガニゼーション(SRO)」の講義内容は、現場での視点と手法に直結する重要な学びとなりました。
私が最も強く実感したのは、「再生の起点は『文脈』である」という視点です。これまでの成功と失敗、変わらぬ価値観、組織に染み付いた癖──そうした積み重ねを真正面から受け止めることが、戦略策定の出発点として欠かせないと感じています。
文脈の往還が現場を動かす
抽象と具体を往還しながら、ケーススタディを自らの実務に引き寄せる。SROにおいては、特に「文脈」を軸とした読み解きが重要です。
たとえば、コダックと富士フイルム。同じ環境変化に直面しながら、似たような戦略を採ったにもかかわらず、成果には大きな差が生まれました。その差を生んだ要因として、企業の歴史や組織文化といった「文脈」の違いがあると考えられます。
実務でも、「あるべき姿」から逆算して戦略を構想する際、現場の納得感を得られずに実行段階で躓くケースがあります。そうしたとき、過去の価値観や成功体験を受け止めるプロセスを省いてしまうと、変革の足場が築けません。だからこそ、現状に至るストーリーを丁寧に読み解くことが、戦略の実効性を高める要となると感じています。
成功体験が価値観をつくり、「癖」となる
SROで語られた「共通価値観は勝ち戦から形成される」という考え方は、再生に関わる際の重要な視点となります。成功体験が組織に染み付き、やがて「癖」として行動パターンに定着する。これを可視化し、変革の対象として捉えることが求められます。
現場においても、「変われない」と評される企業に対し、その根拠が曖昧なまま議論が進むことがあります。そうしたときには、経営層や現場層がどのような価値観や行動様式に影響を受けてきたのかを丁寧にひも解き、再生の入り口として位置づけることが有効だと考えています。
スピードと覚悟が命運を分ける
再生プロセスの成否は、「いかに早く着手できるか」にかかっています。多くの現場で目にするのは、資金繰りに逼迫してからの対症療法的なアプローチです。ですが、それでは本質的な再生には至りません。
早期の着手を可能にするためには、利害関係者──とりわけ金融機関──との対話を通じた「外圧」の活用が重要です。経営者との意識ギャップを埋めつつ、機を逸しない判断を促すためには、第三者的立場からの冷静かつ戦略的な関与が求められます。
再生戦略における「実効性」の重み
中小企業の再生では、理屈上は正しくても実行できない戦略は価値を持ちません。限られたリソースの中で、いかに「やれることをやりきるか」が問われます。
そのためには、まず「やめるべきこと」を決め、選択と集中を図る視点が必要です。この優先順位付けを曖昧にすると、再生の現場はたちまち混乱します。リソースの配分を明確にし、実行可能な施策に絞り込むことで、現場の納得感と推進力を高めることができます。
さらに、現場に伝えるべきは抽象的な目標ではなく、具体的な行動のステップです。「どの階段をどう登っていくのか?」を共に描きながら、短期的成果と中長期的な構造改革を両立させる戦略ストーリーが求められます。
ターンアラウンドマネージャーに求められる姿勢
再生支援の現場で求められるのは、理論と実践の両輪を回す力です。すなわち、論理的なフレームワークを描く知性と、現場に寄り添い、耳を傾け、変革を共に進める共感力のバランスです。
ときに、厳しい判断──組織や人事の再編──を下す必要もあります。そうした局面においても、「情と理」を高次元で両立させ、ブレずに支援を継続できる存在こそが、現場から信頼されるターンアラウンドマネージャーだと考えています。
洞察力の起点は「文脈理解」にある
老舗企業の再生においては、社史や沿革を単なる年表としてではなく、現在の行動様式や組織文化に至る「物語」として読み解く視点が必要です。時系列を追うだけでなく、社会的・政治的な背景まで含めて立体的に捉えることで、「なぜ今、こうなっているのか」の構造が見えてきます。
その構造理解こそが、「変われない理由」ではなく、「変わるための鍵」を発見する起点となるのです。
再生は、単なる業績改善ではなく、組織に染み付いた価値観や癖に向き合い、構造的な変革を起こしていくプロセスです。
SROの学びを通じて、私は「再生の起点は文脈である」との理解をより深めました。これからも、この視点を実務に活かしながら、現場に変化を生み出していきたいと考えています。
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