『MBA実践録#07─ビジネス・アナリティクス─数字は嘘をつかない、でも使い手の「問い」がすべて──ビジネス・アナリティクスで経営を読み解く』

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ファイナンス領域を専門としてきた私にとって、数字とは馴染み深いものであり、業務の多くは財務分析に基づいて組み立てられてきました。そんな中、ビジネス・アナリティクスの学びを通じて得たのは、数字というファクトの扱い方に対する新たな視点でした。

数字はただ正確なだけではなく、使い手の「問い」によって意味を持つ。数字に何を語らせるか──その主導権は常に私たちにあるということ。この理解は、経営において意思決定を担う全ての人にとってのヒントになるはずです。

定量分析は“作業”ではなく“問いを導く手段”

財務分析は多くの場合、定型の指標に基づいて行われがちです。ルーチン化された分析の中で、「そもそも、何のための分析なのか?」という問いが抜け落ちることはないでしょうか。

ビジネス・アナリティクスの本質は、数字を使って経営ストーリーの「因果構造」を描き出すことにあります。ヒト・モノ・カネをどう配分すべきかを決定づける経営戦略は、一貫したロジックの上に構築される必要があります。数字はそのロジックの妥当性を検証し、納得感を与えるための「筋道」です。

WWWHで“問題解決の地図”を描く

経営課題の本質を見抜くには、What(何が)、Where(どこで)、Why(なぜ)、How(どうやって)の4つの視点を整理するWWWHのアプローチが有効です。

中でも重要なのは、「Where=どこに問題があるか」を決めることです。実務では、見えるデータが多ければ多いほど、すべてを分析対象にしてしまいがちです。しかし、リソースには限りがあります。「拡張・トライアルは今回見ない」といった“見ない意思決定”を早い段階で下すことが、問題特定と解決の効率を高めます。

「数字に語らせる」ためには分解せよ

市場シェア、収益構造、購買傾向──あらゆる経営数値は、分解と構造化によってその意味が立ち上がってきます。

たとえば市場シェアを「家庭内ブランド×消費量」に分解すれば、KPIの中で何が課題なのかを見極めることができます。この視点を持つことで、解決策の方向性が明確になり、打ち手に根拠が生まれます。

また、フェルミ推定のように大胆な仮定のもとに概算を試みる手法も、実務上有効です。特に消費者視点のBtoC領域では、「肌感覚」と「定量分析」の行き来が不可欠であり、このバランス感覚は意識的に磨く必要があります。

仮説とデータの往還で“問い”を深める

仮説を立て、データで検証し、仮説を修正していく。このサイクルをスピーディに回していくには、「抽象と具体」の往還が鍵を握ります。

たとえば売上分析において、「軽食カテゴリーが売れていない」という仮説を立てた場合、商品別・曜日別などの粒度で再度データを切ることで、よりリアルな示唆が得られます。重要なのは、データが示す“声”を聞き逃さない解像度です。

因果を扱うことの責任

「相関はあっても因果とは限らない」──この原則は、経営において軽視されがちです。回帰分析を含む統計的手法を用いる際にも、その前提には「仮説」が必要です。

特に重要なのは、外れ値や傾向のズレに目を向け、「この関係は本当に必然か?」と問い続ける姿勢です。意思決定に活かす以上、仮説が数字に耐えうるものであるかを常に検証し続ける責任があります。

不確実性と意思決定──リスクを見える化する

経営とは、常に不確実性の中で意思決定を行う営みです。講義では、感度分析を用いた不確実性の可視化と、意思決定への活用法を学びました。

パラメーターの選定やレンジ設定は「合意形成」と「プロフェッショナル・エイヤー(直感)」の融合です。リスクは悲観の材料ではなく、変動幅そのものであり、それを意思決定の土俵に上げて初めて、経営判断の「納得解」に辿り着けます。

実務に活かす5つの視点

  • 数字は「問いの答え」ではなく、「問いを深める手段」
  • 与えられたモデルがなければ、自ら設計する
  • 粒度(グラニュラリティ)にこだわり、必要な視点で切る
  • 分析は「最終成果」ではなく「仮説検証のプロセス」
  • 不確実性は見える化して初めて経営判断の材料になる

ビジネス・アナリティクスとは、データと向き合う技術ではなく、「問いと仮説」の往還によって、経営の意思決定に筋道を与える思考の鍛錬そのものであると感じています。

今後も、私自身の財務アドバイザリー業務において、ただ数字を見るのではなく、“問いを持って数字を扱う”ことを意識していきたいと思います。

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