『MBA実践録#01──その議論、迷走していませんか? イシュー思考がくれた“ホワイトボード力”』

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2024年にMBAを取得してから、約1年が経過しました。この1年間、私は日々の実務の中で、MBAで学んだ知見をいかに活かすか、という問いに向き合い続けてきました。知識を得ることと、それを自分の行動様式や意思決定にまで落とし込むことの間には、大きな距離がある──この実感をもとに、改めてMBAでの学びを体系的に振り返り、どのように私自身の思考や実務を変えていったのかを、ブログでシリーズとしてまとめていきたいと思います。

今回取り上げるのは「クリティカルシンキング」です。学びの中で特に印象的だった「イシューから始める」という発想と、それを実務にどう活かしたかについて、私自身の体験を通して綴っていきます。

イシューから始めるという発想

クリティカルシンキングの学びの中で最も印象的だったのが、「イシューから始める」という思考の基本姿勢です。何か課題に向き合うとき、我々はつい目の前にある情報や声の大きな意見に引っ張られがちです。しかし、それでは議論が事象に振り回されてしまう。重要なのは、まず「何が本質的な問いなのか(=イシュー)」を見極めること。

そしてそのイシューに対して、「どのような切り口で整理すればよいか」「どんな情報が必要か」という枠組みを考えます。出来合いのフレームワークに頼るのではなく、イシューにダイレクトに答える、自分なりの整理の枠を持つ。この発想の転換が、私の実務を大きく変えました。

特に印象的だったのは、「発生型の問題」と「設定型の問題」という分類です。目の前に顕在化している課題に反応するのではなく、むしろ今この会社・事業がどこに向かうべきかという“未来を設定する”問いを持てるかどうか。これはまさに、経営やコンサルの現場で求められる本質的な視座だと感じました。

迷走する議論に“構造”を持ち込む

最近、ある顧客との定例会議で、議論が迷走しはじめる場面がありました。各部門から参加した担当者が、それぞれの課題や観点を次々と投げかけてくるのですが、話が交差し、論点がどんどんずれていく。以前なら、私もただ聞いてうなずくだけで終わっていたかもしれません。

しかしこのとき、私は思わずホワイトボードの前に立ちました。そして、

  • 「いま話している課題は、どういう問いに答えようとしているのか?」
  • 「その問いは、全体の議論のどこに位置づけられるのか?」
  • 「ファクトと意見が混在していないか?」 といった観点で話を整理し、論点を可視化していきました。

これによって、議論の「現在地」と「目的地」が共有され、全員の目線が揃った感覚がありました。これが、私にとっての“ホワイトボード力”の効果でした。

フレームワークよりも、自分の頭で考える

クリティカルシンキングを学ぶ前の私は、フレームワークを使うことに安心感を覚えていました。3C、5F、4P──MBAでお馴染みのフレームは、もちろん有効です。ただ、それをそのまま当てはめるだけでは「思考停止」に陥ってしまう危険性もある。

印象的だったのは、「イシューが特定されていない段階での枠組みは、ただの分解である」という教えです。イシューが定まっていないままフレームを使うと、情報の整理にはなっても、本質に迫ることはできない。逆に、イシューが明確になると、それに答えるための枠組みが自ずと見えてくる。つまり、イシューを起点にすれば、「フレームを使う」のではなく「構造を自分でつくる」ことができるようになるのです。

自分の思考の癖を知るということ

授業の中で、自分自身の思考の癖にも気づかされました。私はどちらかというと、抽象的な思考に偏る傾向があり、フレームワークや構造を先に考えてから中身を埋めていくというスタイルが染み付いていました。

しかしこのやり方は、時に思考の硬直を招きます。そもそも見えている情報から無意識に逆算して仮説をつくり、「出来レース」のような答えにしてしまう。これは、実務でも無意識にやっていたことで、非常に反省させられました。

大切なのは、常に「なぜそう考えるのか?」「他にあり得る前提はないか?」と自分自身に問い続けること。言い換えれば、自分に対して“反証”を投げかけることです。この習慣を持てるようになったことが、クリティカルシンキングの最大の成果かもしれません。

実務の中で学びを定着させるために

この学びを一過性のものにしないために、私は「課題解決ステップチェックリスト」を自作し、顧客ごとのプロジェクトファイルに組み込んで使っています。イシューの特定から始まり、具体化、枠組み設定、仮説構築、検証、結論──。この一連の流れを、どの業務でも意識的に辿ることで、思考の質が大きく変わりました。

さらに最近では、「議論が抽象化しすぎていないか」「ビッグワードに逃げていないか」といった視点もチェックリストに加えています。これは、議論の下流に行くにつれて話が抽象化し、最終的に「結局、どうするの?」という問いに答えられないという問題を防ぐためです。

伝える力と、共に考える姿勢

特に印象に残っているのが、「ピラミッドストラクチャー(PS)」による伝達スキルです。論理をいかに相手に伝えるか、というスキルは、単に結論を押し付けるのではなく、相手の立場に立って、納得と共感を得る形で構成していく必要があります。

課題解決の思考がいくら正しくても、それをどう相手に伝えるかは別のスキル。論理的に正しいことを、感情的にも納得感を持って受け止めてもらうには、相手のNHK(認識・判断・感情)を踏まえた再構築が必要になるのです。

この学びは、顧客や社内の合意形成プロセスでも非常に役立っています。正しいだけでは人は動かない──だからこそ、「伝える」もまた、思考の一部であるという認識が必要です。

「考え方を考える」ことが、実務を変える

クリティカルシンキングの学びを通じて、私は「思考の型」が定着することで、仕事の質が確実に変わることを実感しました。そしてこれは、ミドル世代になった今だからこそ、身に沁みているのだと思います。

経験や勘だけで仕事を進めてしまいがちな年齢だからこそ、一度立ち止まり、「自分はどう考えているのか?」「本当にそれで良いのか?」を問い直す必要がある。成り行きで仕事をしないために、「考え方を考える」という視点を日々の業務に持ち込む。そのためのツールとして、クリティカルシンキングは非常に有効でした。

そして何より、「自分の思考の癖を認識し、変えようとすること」そのものが、実務と学びを融合する第一歩なのだと思います。

私のように、長らく実務の現場で我流でやってきた方にこそ、この思考法は大きな変化をもたらすかもしれません。迷走する会議の中、そっとホワイトボードの前に立って議論を整理する──それができるようになったのは、まさにクリティカルシンキングを学んだからこそなのです。

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