【全5回連載・第3回】AIにはできない、管理会計の本質──人にしかできないこととは何か?

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「AIがここまで進化したら、会計担当なんて不要になるのでは?」 最近、そんな声を耳にすることが増えました。

確かに、AIは大量のデータを一瞬で処理し、過去の傾向から将来を予測し、最適な提案をすることさえ可能になっています。しかし──だからこそ、改めて浮かび上がるのが「人にしかできない管理会計」の意義です。

第3回では、AIと人間が補完し合う中で、管理会計において“人”が果たすべき役割とは何かを考えてみたいと思います。


1. 判断の文脈をつくるのは、人間だけができる

AIが提供する分析や予測は、確かに高精度で便利です。しかし、それらをどのような経営判断につなげるのかは、企業の状況、価値観、文化、目的によって大きく異なります。

例えば、同じデータが「コスト削減の好機」と見える会社もあれば、「投資を拡大するチャンス」と判断する会社もあります。数字の“意味”を定義するのは、あくまで人間です。

つまり、AIが提供するのは判断の材料であり、その材料をどう咀嚼し、何を重視して判断するかは、経営者や管理会計担当者の価値観と洞察にかかっています。


2. 「問いを立てる力」こそが人の役割

AIは、与えられた問いに対しては非常に優秀です。しかし、そもそも「何を問うべきか」を決めるのは人間の知性です。

  • 今、どんな経営課題があるのか?
  • どこにリスクが潜んでいるのか?
  • どの数字が意思決定に本当に重要なのか?

これらの問いを立てることができなければ、AIはただ過去をなぞるだけのツールになってしまいます。

管理会計とは、数字を見て終わるのではなく、数字を起点に思考を深め、未来への問いをつくる営みです。ここに人間ならではの直観や経験、仮説思考が必要なのです。


3. 社内の“対話”をつくるファシリテーターとしての管理会計

もう一つ、AIには難しいことがあります。それは「組織内の対話を促すこと」です。

数字が見えるようになっても、それが現場に共有され、議論され、合意形成されなければ意味がありません。管理会計担当者は、経営と現場、経理と営業といった部門をつなぎ、共通の言語としての“数字”を介して組織に思考を促す役割を担っています。

AIがどれだけレポートを自動生成できても、誰とどのように議論を進め、何を組織のアクションにするのか──その部分は、人にしかできない仕事です。


4. 管理会計の未来は「人×AI」の協働にある

AIは確かに強力なパートナーですが、万能ではありません。人間が問いを立て、文脈を解釈し、対話を通じて行動を促す。この一連の流れの中で、AIは優秀なアシスタントとして働いてくれる存在です。

だからこそ、AI時代においては、管理会計担当者が「単なる集計係」から、「経営のナビゲーター」へと役割をシフトすることが求められているのです。


次回予告:

第4回では、中小企業におけるAI×管理会計の実践方法にフォーカスし、どこから始めればよいか、どのようにスモールスタートすべきか──具体的な導入のヒントをお届けします。

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