【全5回連載・第1回】管理会計って、結局なんのためにあるんだっけ? 〜AI時代の問い直し〜

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「数字は見せてるけど、見えてる?」
ある経営者との雑談の中で、そんな言葉がふと口をついて出ました。

管理会計の世界では、日々さまざまな数字がつくられ、集められています。売上、原価、部門別の収支、利益率、KPI…。経営会議や部門会議のたびに、資料として整えられるこれらの数字たちは、本来「意思決定を支えるための道具」であるはずです。しかし実際には、「作って終わり」「見せて満足」になってはいないでしょうか。


管理会計とは何か──目的と本質

まず、改めて「管理会計とは何か」を整理しておきましょう。
管理会計とは、企業内部の経営者やマネジメント層が意思決定を行うための情報を提供する会計のことです。対して、財務会計は外部利害関係者に対して企業の財政状態や業績を報告するための会計です。

管理会計の目的は、経営資源を最適に配分し、企業の価値を最大化することにあります。そのためには、現場の実態に即したタイムリーなデータの把握と、それをもとにした深い分析が必要です。

しかし現実には、管理会計が単なる「報告のための資料作成」にとどまり、実際の戦略策定や現場の意思決定にまでつながっていないケースが多く見られます。それは、情報が断片的であったり、集計に時間がかかりすぎたり、解釈が属人的だったりといった、構造的な課題に起因しています。


数字があっても、意思決定は迷う

たとえば、部門別損益を毎月出していても、それが「部門のどんな行動と結びついているのか」「どう改善すべきか」といった具体的な示唆につながらないケースは少なくありません。
現場からは「資料の作成に時間がかかりすぎて、内容の深掘りや議論の余裕がない」「数字はあるけど、次にどう動けばいいか分からない」という声も聞こえてきます。

結局、意思決定はベテランの勘と経験に頼る形になり、管理会計が本来果たすべき“戦略の羅針盤”としての機能は十分に発揮されていないのが現実です。


AIは、管理会計のどこを変えうるのか?

ここに、AIという新たなプレイヤーが登場します。
AIが得意とするのは、大量のデータからパターンを見出すこと、そして未来の予測やシナリオを提示することです。

たとえば、売上データや原価推移から、「このままでは3ヶ月後にキャッシュが逼迫する可能性がある」「この商品は特定の顧客層で利益率が高い」といった示唆を自動で導き出す。さらに自然言語処理を活用すれば、数字の背景や変動要因をわかりやすく文章化してレポートすることも可能です。

AIは、単なる計算や集計を代替するだけではありません。
「数字の意味を解釈する」「意思決定の方向性を示唆する」といった、人間の思考を支えるパートナーとなりうるのです。


思考の質を上げるために、AIを使う

「AIで業務を効率化する」という言葉をよく耳にします。もちろん、それも大切な価値の一つです。
しかし、管理会計におけるAI活用の本質は、「思考の省力化」ではなく、「思考のレイヤーを一段引き上げる」ことにあると私は考えます。

ルーティン業務から解放された人間は、「なぜこの数字が出ているのか」「今、何を決めるべきか」という問いに、より集中できるようになります。
経営者やマネージャーが、数字の“加工”に時間を取られるのではなく、数字の“意味”を深く考える時間を持つこと。それこそが、本来の管理会計のあるべき姿なのではないでしょうか。


管理会計の原点に立ち返る

「管理会計って、結局なんのためにあるんだっけ?」
AIという新しい技術の登場は、私たちにこの根本的な問いを改めて投げかけているように思えます。


▶本記事は「AI×管理会計」をテーマとした全5回連載の第1回です。
今後は以下のようなテーマで、AI時代における管理会計のあり方を深掘りしていきます。

▼全5回の構成予定:

  1. 管理会計って、結局なんのためにあるんだっけ?(本記事)
  2. AIはどう意思決定を支援するのか?──予測・分析・提案の現場
  3. 導入事例と現実の壁──AI×管理会計のリアル
  4. 会計人材はどう変わるのか?──AI時代の新しい役割
  5. 中小企業の武器になる──AI×管理会計、実践への道筋

▶次回予告:
第2回では、AIがどのように具体的な意思決定を支援するのか──「分析」「予測」「提案」という3つの視点から掘り下げていきます。経営会議が変わる。そんな未来のヒントをお届けします。

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