『MBA実践録#06─マーケティング─マーケティングを“型”から解き放つ──STP-4Pを往還しながら顧客価値に迫る』

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「マーケティングとは何か?」この問いに対して、私はMBAを通じて初めて真剣に向き合いました。ファイナンス領域を専門としてきた私にとって、マーケティングという分野は少し縁遠く、定性的で“曖昧なもの”という先入観がありました。しかし6回にわたるケースを通じて、私の中でマーケティングの解像度は大きく変わりました。

本稿では、STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)と4P(製品・価格・チャネル・プロモーション)という古典的フレームワークを、実務にどう活かすのか。その中で私が得た本質的な気づき──つまり、型に頼るのではなく、リアリティある情報の中で問いを立て、顧客視点で価値を再定義するというアプローチについて共有したいと思います。

フレームワークの限界に気づく

最初のケースで私は、マーケティングプロセスの手順──環境分析→STP→4P──に忠実に従おうとしました。ところが、その結果得られたのは単なる情報の整理に過ぎず、解決すべき課題の核心には届きませんでした。

この経験から得たのは、「まずイシューを見極めること」の重要性です。型に沿うことよりも、「この企業が本当に解決したい問題は何か?」「顧客は何を感じているのか?」という問いを立て、そのギャップを埋めることが何よりも先だと痛感しました。

中小企業支援における往還的実践

私の顧客は、マーケティング部門すら存在しない中小企業ばかりです。けれども環境変化に適応できず、売上が漸減し、顧客が離反していく現実がそこにあります。

そうした現場で、学びを活かして私が取り組みはじめたことは、STP-4Pを“往還的に”使うアプローチです。たとえばある印刷会社では、ペーパーレス化の波を受けて新商品の構想はあるものの、明確なターゲット像も訴求価値も見えないという状況でした。

ここでは、既にあるアイデア群を起点に、「誰の、どんな課題を、どう解決するのか?」を一緒に整理していくところから始めました。そして、ターゲットとターゲットに対する提供価値の「仮説」が見えてきた時点で、今一度アイデアへの考察を加えていく。
あえて最初から完全な環境分析を求めるのではなく、動きながら見えてきた情報をもとにSTP-4Pを行き来することで、徐々に輪郭が浮かび上がってくるという「手触り感」を得ることが大切であることを学びました。

ポジショニングは“伝えたい価値”ではなく“伝わっている価値”

私が関与している和菓子店の支援では、苺大福という代表商品に対して、経営者は「高品質」「唯一無二」と強い自負を持っていました。けれども、消費者が求める基準は変化しており、コンビニスイーツとの比較で割高に感じられてしまっているという“ギャップ”がありました。

このケースでは、ポジショニングとは「企業が伝えたい価値」ではなく、「顧客が認識している価値」であり、そのズレに気づくことが出発点となりました。特に印象的だったのは、「ポジショニング自体を変えるべきなのか」「それとも顧客とのコミュニケーションを変えるべきなのか」を分けて考えるべきだという視点です。

思考プロセスの転換

私が最も大きく変わったのは、仮説とファクトの“往還”を常に意識するようになった点です。最初から答えがあるわけではなく、限られた情報の中で仮説を立て、行動し、検証し、また仮説を修正する──このプロセスの中で、STP-4Pを何度も行き来することが求められるのです。

マーケティングは、「思考忍耐力」が問われる分野だと思います。情報が整理できた気になった瞬間、そこで思考が止まる。その誘惑に抗いながら、問い続け、考え続けることが本質的なマーケティングにつながるのだろうなと思いました。

感性を育てるという視点

マーケティングの学びの中で私が最後に辿り着いたのは、「感性」の重要性です。たとえば、「人はなぜレース場に足を運ぶのか?」という問いから出発したケースでは、数値や論理だけでは見えてこない、人の情緒や価値観が購買行動を左右するという事実を突き付けられました。

感覚的価値、情緒的経験価値、ライフスタイルとの結び付き──そういったものが、いまや消費の主戦場になっているという現実があります。

だからこそ、企業理念やブランドが単なるスローガンに終わるのではなく、「共感」や「意味づけ」を伴って顧客の心に届く必要があるのです。ブランドとは、理念が顧客の中に根付き、自然と“語られる”存在であるべきであり、それは「左脳」と「右脳」のバランスがとれたコミュニケーションの結果なのだと理解しました。

実務で意識したいこと

  • 顧客の“認知のズレ”に敏感になること
  • STP-4Pは順序ではなく、思考の視点を提供するフレームであると理解すること
  • あくまで主語は“顧客”であり、自社視点に引っ張られすぎないこと
  • 感覚や直感を軽視せず、データと感性のバランスをとること
  • ブランドとは“理念の体現”であり、企業活動の根幹であること

マーケティングは、決して型どおりに整理すれば答えが出るような領域ではなく、問い続ける力と、顧客の心に触れる想像力。この2つの往還こそが、マーケティングを実務に活かすための本質であることを学びました。
マーケティング実務に直接的に関与していない立場からも、こういった視点を持ちながら、マーケティングの現場に問いかけていきたいと思います。

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